第43話 デート

 フォスの街に飛んだ俺は、向日葵とポータルの所で待ち合わせた。


「待った?」

「ううん、ぜんぜん」


 まるでカップルだな。

 ゲーム内カップルはそこそこいる。

 煩わしさがほとんどなくて、気軽に付き合えるからだ。

 だが、俺は無職ということに引け目を感じてる。

 リアルのことを持ち込んでも仕方ないのにな。


 フォスの街は、機会都市チックだ。

 壁のあちこちに光の線がランダムに走る。

 レーザー岩というらしいがこの街の近くの特産だ。


 ちょっと目がチカチカするな。

 まあ、30秒に一回とかの頻度だけど。


print("【われは内包する、魔法規則。かの者は、好きなあなた。花生成の命令をレベル1の幻影魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものをかの者の目の前で生成せよ。幻影】")


 幻影で花を作ってみた。


「素敵ね。嬉しい」


 ああ、こういうので良かったのか。

 幻影の花を一本出す。

 なんてことのない魔法だ。

 だが、貰う方は幻影でも嬉しい。

 このまま魔道具にするには味気ないから、ランダムで別の花が出るようにするか。


import random

i=random.randint(1,100)

if i==1:

  print("【われは内包する、魔法規則。かの者は、好きなあなた。向日葵生成の命令をレベル1の幻影魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものをかの者の目の前で生成せよ。幻影】")

if i==2:

  print("【われは内包する、魔法規則。かの者は、好きなあなた。薔薇生成の命令をレベル1の幻影魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものをかの者の目の前で生成せよ。幻影】")


 こんな感じで100種類の花の幻影がランダムで現れる。


「ちょっと。素敵な女の子がいて、それはないんじゃない」

「すまん。魔道具のアイデアが浮かんだから、作っておきたくって」

「分かった。会うたびに花の幻影を出して、それで許してあげる」


 さっそく、ランダム花の魔道具が役に立ちそうだ。

 ダイブアウトしたら花の種類を調べよう。


 この街の観光名所は、レーザー岩の石碑だ。

 石碑にレーザーの光みたいな線が花火みたいに現れる。


 さっそく行ってみたところ、カップルが多かった。

 うん、向日葵と来て良かったよ、ひとりなら場違い感があって居た堪れなかったところだ。


「綺麗ね」

「うん」

「でも花火みたいなのは何となく悲しいわね。散り行く美しさなんでしょうけど」

「そうだね。でも傷ついてもなかなか壊れない木みたいなのも悲しいね。散れない悲しさかな」

「うん。ただ傷ついて行くだけってのも悲しいわね」

「ごめん、湿っぽくなった」

「ううん、元はと言えば私が悲しいなんて言ったから」


「やり直しさせてくれ。花火は散っても人の心に残るよ。それは悲しいけど悲しくないと思う」

「そうね」


 俺は始めてから一ヶ月経ったらこのゲームを終了してしまうのだろうか。

 それは散ることになるのかな。

 色々な人間の心に俺の記憶を残して。

 うん、センチメンタルになった。

 傷つきやすい思春期でもあるまいし。


 次は、連響の鐘だ。

 ひとつ鐘を鳴らすと、次々に鐘が鳴り出す。

 その鐘の音色は全て違っていて、メロディみたいにも聞こえる。


「美しい音色。心が洗われるようね」

「そうだね。まるで俺達の勝利を祝福してくれてるみたいだ」

「クラン戦、頑張らないと」


 次の場所は、心の鏡。

 心境が映像となって現れるらしい。


 俺はその鏡を覗き込んだ。

 不安に怯える俺の姿があった。


 向日葵が覗き込むと向日葵は笑ってた。

 俺とは対照的だ。


「心配ごとでもあるの?」

「プロゲーマーの夢が絶たれるのが怖い。何をやっても駄目な自分が嫌いだ」

「そんなことないよ。あなたはこのゲームの最強プレイヤーでしょう」

「そうだけど、チートありきだから」

「チートでしょうがなんでしょうがそれは貴方の力じゃないの。ガチャで偶然良い物が出たってのも運の力よ」

「でもやり過ぎると、きっと規制される。そうなったら俺、もうどうにもならない」


「たらればを考えたら駄目よ。理想に向かってがむしゃらよ。出来ないとは言わない。常に理想の自分を思い浮かべるの」


 理想の自分か。

 魔道具売買で大儲けして、月に30万稼ぐ。

 それには、近道なんてないんだ。

 一歩ずつ進まないと。


「うん、イメージ出来たよ。理想の自分に向かって一歩ずつ。目標さえ失わなければ、少しずつ近づくさ。辿り着けないとは言わない。とにかく進むだけだ。近づいたら自分を褒めよう」

「そうね。それが良いと思う」


 何となく吹っ切れた気がする。

 一歩ずつだ。

 この瞬間も進んでる。

 花の魔道具のアイデアも出たし。

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