第17話 鍵

 あー、耐久値があんな設定になっているとは。

 レベルが高い鑑定なら耐久値も分かるんだろうな。

 鑑定連打ではどうにもならないのが悔しい。


 しょうがない。

 観光名所回ってファストの街に帰るか。


 大聖堂に行く。

 プレイヤーが多数いた。


 人混みをかき分け、ステンドグラスの前に立つ。

 うん、勇者とドラゴンの戦いの場面のそれは綺麗だが、だから何って感想しか出て来ない。


 パイプオルガンの演奏が始まる。

 重厚な音色が響き渡った。

 うんうん、だから何。


 スタンピード鎮圧の石碑の前に立つ。

 カップルが手を置くと、ピンク色の光のシャワーが降り注いだ。

 けっ、どうせ俺は恋人がいないよ。

 ひとりでやってもあの光は出るんだろうか。

 試したら可哀想な奴だと思われるに違いない。

 退散するに限る。


 もうひとつの広場の噴水ね。

 確かに水の中の魔石がキラキラ光って綺麗だ。

 だから何。

 一銭にもならないじゃないか。

 そうだ、どうせ中ボスのエルダートレントはボスマラソンしようと思ってたんだ。

 ここで中ボスの魔石を沈めてみよう。

 握り拳より一回り小さい魔石を沈めると、噴水の水面が光を発した。


『過去の戦いを再現します』


 目の前には燃え盛る街。

 そして、ドラゴンと勇者。


「【Pythonパイソン 無限火球.py】」


 炎のぶっといビームがドラゴンに向かって伸びていき、ドラゴンを押した。

 後退するドラゴンの体全体から水蒸気が上がる。


 しぶといな。


 勇者がジャンプ一閃。

 ドラゴンの首を切り落とした。


『過去の戦いを終わります。報酬は金貨1枚と大銀貨3枚です』


 そういう、アトラクションね。

 討伐に掛った時間とかで報酬が変わるのだろう。

 魔石を売ったと考えればいいか。


「何か魔道具作成のヒントとかくれないのか」


『周囲を観察せよ。違った視点で見ればまた世界は違う』


「えっとどういう意味だ」


 俺の質問に応えはない。

 違った視点か。

 そんなのが出来るのは天才だ。

 普通の人間は別の視点などで物事を見れない。

 目で見ている物が全てだ。


「お恵みを」


 見覚えのある物乞いが近寄ってきてそう言った。

 追っ払おう。

 大銀貨1枚を摘まむと、やれやれと肩をすくめられた。

 ええっ、これで不満なのかよ。

 金貨1枚を摘まむと、物乞いはにっこり微笑んだ。

 まあいいか。

 ボスマラソンすれば、たくさん魔石は手に入るし、ここで魔石を沈めれば金貨は手に入る。


 物乞いが持っている皿に金貨を置いた。


「お前、プログラムの奥深さが分かってない。この世界を知れ。そのために鍵は既にある」

「へっ」

「例えば『glob.glob("*.py")』だ。同じようなことをしたければ『subprocess.run("dir *.py",stdout=subprocess.PIPE,shell=True,encoding="shift-jis")』でもできる」

「何だって?」

「あなたの道に希望がありますように」


 物乞いは一礼すると去って行った。

 今の会話はやけに具体的だったな。

 ええと、何だったんだ。

 過去に10分に遡って録画と。


 これでさっきの会話をきっちり録画出来た。

 一旦、ダイブアウトしよう。


「ふぃー。さっきのは何だったんだ」


 それよりも、無双動画を配信しないと。

 バーテックスチャンネルを登録。

 動画をアップ。


 さっきの会話を字に書き写す。

 Pythonパイソン入門で調べた。

 『glob.glob("*.py")』は使ったことがある。

 ファイルのリストができるんだ。


import glob # 機能を追加

res = glob.glob("*.py") # プログラムソースリストの情報を得る

print(res) # 情報を表示


 こんな感じのプログラムになる。



 『subprocess.run』はDOSコマンドが使えるようだ。

 言われた通り、それを使ってプログラムを組んでみる。



import subprocess # 機能を追加

res = subprocess.run("dir *.py",stdout=subprocess.PIPE,shell=True,encoding="shift-jis") # プログラムソースリストの情報を取得

print(res.stdout) # 情報を表示


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。


「ダイブイン」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る