第11話 10倍速火球

「PKクランのジェノサイドがバーテックスを狩るって息巻いているらしいぜ」

「ジェノサイドとバーテックスの両方が共倒れで消えてほしい」

「そうだな。だが、現実はそんなに甘くない。クリティカルみたいなことを祈っても仕方ないぜ」


 俺は道を歩いていて、通行人が話すバーテックスの名前を聞いてギクっとした。

 PKクランとはまた物騒だな。

 隠蔽の魔道具が上手く働いていることを祈る。


「やほー」

「おう、向日葵。これから討伐か?」

「ええと、次の街が発見されたのは知ってるのよね」

「いや初耳」

「この間、倒されたレイドボスの森を抜けると第2の街があるらしいの」


「そういやこの街は何て言う街だ?」

「ファストよ。で次の街がセカド」


 運営手抜きだな。

 まあ、VR部分はしっかりと作られているから、そのぶん手抜きになったのかもな。


「向日葵はセカドの街に拠点を移すのか。寂しくなるな」

「そんなことも知らないの。各街はポータルで結ばれていて、一瞬で移動できるのよ」

「便利だな」

「行った事のない街には移動できないんだけどね」

「それはお約束だな。よし、俺も活動の拠点を他の街に移すぞ」

「じゃあ、一緒に行く」

「おう。よろしく」


 向日葵とセカドの街に向けて出発だ。

 最初はスライムの草原だ。

 出てきたスライムに。


「【Pythonパイソン 火球100改.py】」


 100回ほどのループの火球、レベル13相当を放つ。

 50センチほどの火の玉がスライムを焦がす。

 一撃だ。

 苦労してた初日がなんだったかというぐらいあっけない。


「知ってる? スキルのレベルって30が限界みたい」


 そうなると俺のスキルはますますチートだな。


「色々なスキルを覚えさせようって腹積もりだな」

「それがね。全てのスキルレベル合計が100までらしいの。課金すると10ずつ合計レベルが増えて、200で本当の限界」

「知らなかったよ」


 もっと、情報収集しないといけないのかも知れない。


「ワールドクエストっていうのがあって、詳細は不明なの」

「ふうん、ありがちだな」


 おっと、スライムの領域を抜ける。

 レイドボス戦の時にここを通ったが、その時はモンスターを他の人があっという間に倒したから、じっくり見てないや。


 角の生えたウサギと、狼型のモンスターと、赤いスライムが見える。

 ホーンラビットに、ウルフに、レッドスライムね。

 まあ、火球100改の敵じゃないだろう。

 だが憎らしいことにこいつら、避けまくって俺に攻撃を加えてくる。


「ここは、範囲攻撃がないと。近接のスキルを取るのも手だけど」

「くそう、ちょこまかと。こうなったら【Pythonパイソン 火球1000改.py】」


 1メートルほどの火球がモンスターをかすめる。

 かすっただけでもモンスターは体力バーを減らして、散っていった。


 レベル22相当の攻撃だから、マックスにかなり近い。

 レベル30だと2メートル半ぐらいだから、これぐらいまではチートだと思われないだろう。


 レベル30相当だと、1万回ループだ。


「火球だけだと怪しまれるわね。レベルが高い魔法は恰好良いから、みんな好んで使うわ」

「じゃあ、やってみるか」


for i in range(0,100,1): # 100回ループ

  print("【われは内包する、魔法規則。火球生成の命令をレベル1の火魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを飛ばせ。火球】")

  print("【われは内包する、魔法規則。突風の命令をレベル1の風魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを実現せよ。風跳躍】")

  for i in range(0,20,1): # 20回ループ

    print("【われは内包する、魔法規則。かの者は自分。魔力吸収の命令をレベル1の吸魔魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にかの者の名前を渡せ。極小吸魔】")


 火と風の合体魔法だ。

 渦巻きは出来ない。

 火球のスピードが上がっただけだ。

 でもちょっといいかも。


 のろのろ飛ぶよりはビューっと飛ぶ方が良い。


「2倍の速度で飛ぶ火球かぁ。地味ね」

「俺だって火炎旋風みたいなのをやりたいよ。でも出来ないから。なら、ちょっと改良して」


for i in range(0,100,1): # 100回ループ

  print("【われは内包する、魔法規則。火球生成の命令をレベル1の火魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを飛ばせ。火球】")

  for i in range(0,10,1): # 10回ループ

    print("【われは内包する、魔法規則。突風の命令をレベル1の風魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にありしものを実現せよ。風跳躍】")

  for i in range(0,110,1): # 110回ループ

    print("【われは内包する、魔法規則。かの者は自分。魔力吸収の命令をレベル1の吸魔魔法に受け渡し、魔法情報を受け取れ。魔法情報にかの者の名前を渡せ。極小吸魔】")


「どうよ」

「凄い、火球があんな速度で飛ぶなんて、目で追えなかったわ」

「火球10倍速だよ。レーザー火球と言ってもいい」

「必殺技っぽいね」


 モンスターに向かってレーザー火球を連射しながら、進む。

 さすがに10倍速は避けられないようで、モンスターは面白いように食らっていく。

 この分だと次の街まで余裕だな。

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