六、逐鹿
「お、お」
ついに船を
船は、小舟である。川漁に使われし、古び頼りなき小舟である。それでも一行には、蒙塵を可能にせし唯一の手段である。
「大事なかったか」
人士の一人が、小舟の
「答えよ」
人士が近づき見れば、果たして義人であった人影の
ぐわりと揺れ
「船が」
舫縄を握る義人の骸を引きずって、船が流れ行かんとす。
飛び出したるは、宦官であった。舫縄を握るも、船は
「よくやった、宦官」
ある人士が宦官を誉め、
「近づけよ、腰を曲げよ。
人士は狭い船中を検め、誰も何もないと分かると、
「陛下、どうぞこちらへ」
「許せ」
帝は宦官へ一言
「耐えよ、宦官」
また一人船へ渡らんとす人士の足を背に感じ、宦官は再び体に力をこめるも、人士の足の重みは、矢音とともに消ゆ。
宦官は息を呑み、人士の
「
場にそぐわぬ涼やかな、宦官の知らぬ声が、帝を不敬に呼ばう。
宦官が見れば、一騎の騎馬があった。
騎馬の者は、帝を帝と呼ばぬ。豫章王と、
騎馬の胡人は、
「この
などと名乗ろうものか! 中華の人が如き氏と字の何と不似合いなことよと、宦官は
「
なおも
「よくも、よくも!」
と帝は胡人を
「世の習い、戦の習いではありませぬか」
「我ら
「
帝は
「
――誠にその通り。
宦官は
胡は、胡である。野蛮である。中華より劣っていること、明白である。いま仮に
玉音を賜いし胡人は
「やれ」
いかにも胡人らしく、粗暴に命ず。
胡人は、一人ではなかった。
宦官は水中にありて、洛水の岸辺へ手を伸ばす。手は空を
宦官は助けを求めて手を伸ばす。手を取る者はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます