第13話 森の変化

 夜勤明けの疲れた体を引き摺って、ベッドへと辿り着く。

 ドサリと崩れ落ちるように、エディは顔面からベッドへ落ちた。


 髪は多少拭っただけで、まだ濡れたままだ。

 いけないと思いつつも、体力的というよりは精神的に疲れているせいで動く気が起きない。


「今日は、とくに疲れた……」


 魔獣えものが侵入した夜はまだ良い。

 いや、良くはないのだが、エディの仕事内容としては辛いものがある。

 だって、一晩中、誰も来ない門を見張っているだけなんて……。


「はぁぁ……しんど」


 魔鳥の一羽も来ない日が続いていた。

 いつもだったら、魔狐や魔兎がちょこちょこ侵入してきていたのだが、全く来ないというのは珍しすぎる。


 前はザワザワと生きているような気配をさせていた魔の森は、この一週間で随分と様子が変わってきていた。なんというか、静かすぎるのだ。


「なんだか、おとなしくなったような……? もしかして、これが鍵の代わりってことなのかな」


 ロキースは言っていた。

 彼が魔の森に住むことで、ヴィリニュスの鍵の代わりになるのだと。


「ロキースのおかげかどうか、今日、聞いてみないと……仮眠から醒めたら、身支度して……お迎えに来てくれるはずだから、一緒に……ふわぁぁ」


 今日は、完成した家を見せてもらう約束をしていた。

 ヴィリニュス家の屋敷からそう遠くない、魔の森の中にロキースの家はあるという。


 大きな木のうろを利用した家だと言っていたが、どんな家なのだろう。

 眠気に負けたぼんやりとした頭で、エディは想像してみる。


 大きな木があって、木のうろがあって。

 家というからには、きっとドアがついているはずだ。

 ドアを開いて中へ入ったら、確か一階がリビングで二階が寝室だとロキースは言っていた。

 リビングにはテーブルと椅子があって、寝室にはきっと、ロキースが寝る為の大きなベッドがあるのだろう。


(家具も手作りみたいだし、木彫りの温かみのあるやつなんだろうな。こう、童話にあるみたいな……いいなぁ。そんな家に、僕も住んでみたい)


 場所が魔の森でなかったら、と悔やまれてならない。

 ロキースは熊の獣人だから住めるだけだ。ただの人でしかないエディには、とてもじゃないが住むなんて難しいだろう。


(同居だったら、いけそうかなぁ……)


 エディは女を捨てているせいか、危機管理に対する姿勢がないようである。

 彼女に恋するロキースと一緒に住もうものなら、同居なんて不可能だ。

 同棲もすっ飛ばして初夜になりかねない。まぁ、エディが泣いて嫌がった場合はないだろうが、ロキースが悶々とした夜を過ごすのは間違いないだろう。


 想像の家を夢見ていたら、だんだんと瞼が重くなってきた。

 エディの意識は深く深く、落ちていく。

 泥のように眠る彼女の部屋へ侵入する者があったが、彼女は気付かなかった。

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