第3話 再会の形
友達を二人引連れて食堂に現れた彼女――星宮妃咲希はAセットのランチをお盆に乗せて、ニコニコと笑みを振り撒いて歩いてきた。
――妃咲希ちゃ〜ん! こっち空いてるから座りなよ! お友達も一緒にさ!
――うんうん! 俺たちがこの学校の事なんでも教えるぜ?
「やっほ〜せんぱいっ、すごーく有難いお誘いだけど、あいにく今は女の子だけで話したい気分なの! またの機会にしとくねっ」
――そっかそっかぁ! それなら仕方ないなぁ?
――おうおう! でも妃咲希ちゃんノリ良さそうだし、早く放課後にでも遊びたいなぁ!
欲求ダダ漏れの表情を浮かべた上級生達からの浴びるような視線と誘いを受けながら、彼女達は席を探しているようだった。
「ほらほら〜、なおっちもらいとっちも何処見てよそ見してるわけぇ?」
俺と直人は同時に正面に向き直す。三谷と咲優はまだ食べ終わっていないが、美由紀は一足早く食べ終わったらしく、俺と直人の異変に気づいたのだろう。
直人は動じることなく、ほら――っと指を指す。
「あそこで先輩達に絡まれてる三人組の中で、ダントツで“一番”可愛い子――星宮妃咲希さんなんだよ」
直人が小声で答えると、その彼に軽蔑したような眼差しを向ける美由紀。
「へぇあれがぁ……じゃなくて。なおっち最低すぎ……」
え? と目を丸くしている彼は、おそらく美由紀が何について言ってるのか分かっていないのだろう。
「右から何番目〜とかで言いなさいよね。なんとなくは伝わるけどさ、正直あれ、三人ともめっちゃレベル高いし、順位なんか付けられたら大抵の女子なら気後れしちゃうんですけど?」
「え……まじぇ?」
指摘されてもなお、直人は疑問の表情を浮かべたままだが、今のに関しては彼女の言う通りだった。
星宮さんと共に歩いてくる二人の友人が彼女と同じクラスなのかは分からないが、美由紀の言う通り二人ともかなり容姿が整っているのは間違いない。
一人は艶が立つ黒髪ボブの小柄な少女。もう一人は長い蒼銀髪と全身から溢れ出す気品さを纏う上品オーラ全開の少女。
中心に居る星宮さんが目立ちがちだが、二人とも彼女に負けず劣らずの美貌を有している。
俺は昨日のうちに星宮妃咲希という存在を認知していたので勿論伝わるが、初見ならばもはや誰が一番可愛いかなんて個人の主観と好み次第だろうに。
「はぁ……ほんとお前は。男子だけならともかく、女子がいる前でそういう軽率な発言するのはアホが過ぎるっていつも言ってきただろ? 一緒にいるこっちが恥ずかしくなるんだけど?」
「そこまで言わなくたっていいだろ。女子がいる前で――とか言うあたりお前も星宮さんしか視界に写ってない癖によっ」
「へ〜、らいとっちも中々面食いなんだぁ?」
「だからそんなんじゃないっつーの。直人お前、ほんとに面倒なことしてくれたな。後で覚えてろよ?」
まず第一、俺が彼女に夢中なっているのは直人の単純馬鹿な理由とは訳が違う。本当に彼女があの世界での勇者シャルの生まれ変わりなのかどうかを先ずは確かめなきゃいけないんだ。
問題は仮にもしシャルの生まれ変わりなのだとしても、俺とは違って前世での記憶が完全に失われてるかもしれないこと。正直それが一番怖い。
「な〜にすました顔で誤魔化してるんだよ頼人」
ニヤつく親友を睨みつけ、目を閉じて味噌汁をすすっている咲優の機嫌を伺う。
「美由紀も咲優も、直人の冗談を真に受けて変な勘違いすんなよ?」
「はぁ〜い」
「……どうだかっ」
ここから更にややこしい事にならなければいいのだが、その為にはどの道色々と確認しなければならないので、一度冷静に考えるべく目を閉じてテーブルに伏せてみる。
すると一分も経たずしてポンポン――ッと右肩を叩かれたので俺は伏せたまま返答する。
「おい直人、これ以上ふざけると怒るからな?」と忠告すると、俺は自分自身の言葉にある違和感を感じた。
確か今、直人は俺の左隣に座っていて、右の椅子は空いているはず……だよな。だから右肩を叩かれるのは変……なんだが。
「え――?」
咄嗟に顔を上げると、金髪碧眼の小さな顔がポカン――とした表情を浮かべて、俺の瞳を覗いていた。ほぼゼロ距離で。
「うわッ!」っと思わず立ち上がる
「あ〜ごめんねっ? 何処も三つ席空いてなくてさ、隣座ってもいいかなっ……て」
「あぁ、それはもちろん良い……けど」
刹那――彼女の瞳が大きく開き、血の気が引いたように顔色を悪くして、枯れた声が漏れた。
「え……きみ、うそ」
こうして陰ながら俺が一方的に彼女の事を眺めることはもう出来なくなり、彼女もまた俺――西島頼人という存在を認識してしまった。
そしてその反応は当然初めましての相手に向けるものではなく、驚愕に満ちた顔で。
果たしてこれが良い形での再会と言えるかは分からないが。高校生活早三日、俺と彼女の関係はこれから一体どうなるのだろうか。
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