第16話 僕は彼女がほしかった~クラス一の美女、水木玲奈の告白~
「ねぇ デビ子。」
「変な呼び方をするなデビ!」
小悪魔は小さな手で、僕の髪を綱引きのように引っ張りだした。
「いいデビか? リアの呼び名はリアちゃんか、リア様で統一するデビよ。」
…くっ 毛根にダメージがいくだろ!? 将来、禿げたらどうすんのさ。
僕は小悪魔を両手で捕まえた。今まで試したこともなかったし、興味すらわかなかったけれど、どうやら僕と小悪魔はお互いに触れ合うことができるようだ。
「離すデビ! セクハラで訴えるデビ!」
「ふーん。悪魔を擁護してくれる弁護士が見つかるといいね。」
「むっこうなったら、必殺ケルベロスアタックデビ!」
「おっ!?」
なんと小悪魔はガブガブガブと僕の手に3回かみついたではないか。
仄かな赤み帯びた僕の手には可愛らしい噛みあとが残っていた。…うん、驚いて声をあげちゃったけど全然痛くないや。
「綺麗なバラには棘があるデビ!」
「まあ、子猫の甘噛み程度だね。それよりもリア様、質門なんだけど―――なんで君は生まれたばかりなのに色んなことを知ってるの?」
僕が気になっていたことを聞くと、小悪魔は楽しげに空を飛びながら答えた。
「リアは邪神様とリンクしているから、様々な情報が流れ込んでくるデビよ。」
…リンク? それってまさか!?
「こっちの情報も邪神爺に流れてるってことかな?」
「そうデビ。リアの目を通して邪神様はすべて見ておられるデビよ。」
…こわぁ ストーカーじゃん。
「そのリンクを切ってよ。」
「此方からリンクを切ることはできないデビ。」
「やっぱりか………。」
「でも、主様にもメリットはあるデビよ。」
「どういうこと?」
小悪魔はピンッと指を二本立てて自慢気に説明した。
要領の得ない下手くそな説明を聞いた僕は自分なりに纏めて手帳に書き記した。
一、邪神爺の持ってる知識を得られる。
二、僕の成長によって、リアが獲得できる能力はすべて邪神爺の力である。
三、小悪魔と契約を結ぶことでその強力な力を使える。
「強力な力ね………。どうせ他にもリスクとかあるんでしょ?
悪魔だから魂を渡せとか言い出すのかな?」
「そんな大きな代償は必要ないデビ。」
小悪魔はそう言って、僕の耳たぶを引っ張り告げた。…これが悪魔の囁きか。
「契約を結べばリアを中継して、主様と邪神様が繋がるデビ。
主様の感情、特に怒り、憎しみ、悲しみなどが邪神様の好物デビ。」
「つまり、力を貸す代わりに存分に苦しんで楽しませろってことね。」
…悪趣味な爺さんだ。
「それで契約を結ぶデビか?」
「もちろん、断る。僕は自分の力で少しずつ強くなる方が性に合ってるからね。」
「そうデビ、か………。」
僕はトイレの便座より立ち上がるとガクンと肩をおとした小悪魔を横目に教室へと戻っていく。…さあ、不良たちの掃除(チャンバラごっこ)を見届けるとしようか。
そして、放課後になった。
「明君。帰りましょうか?」
「ごめん、伊吹ちゃん。今日は大事な用事があるんだ。」
「では、終わるまで待ってましょうか?」
…僕のシックスセンスが告げている......。
ラブレターのことを伊吹ちゃんに知られるのは不味いと!
「いや、悪いし、先に帰ってていいよ。」
「……わかりました。」
伊吹ちゃんが渋々といった様子で帰っていくのを手を振り見送る。
そして、彼女が教室を出たのを確認して目的の場所へと急ぐ。
不良に絡まれて遅れるわけにはいかないので、紛争地域に潜む戦場カメラマンのように気配を消して歩いた。
…そういや、無属性魔法の中には『隠密』という気配を消す魔法があったな、僕は適正をもってるわけだし、今度ギルドショップで魔道書を見てみるのもいいかもしれないぞ。
僕はそんなことを考えつつ階段をのぼり踊り場を通って屋上への扉を開いた。
「来てくれたんだね!」
綺麗だと思った。艶のある亜麻色の髪は腰の下まで伸びていて、屋上を吹き抜ける風に靡いていた。
髪を押さえて微笑む彼女には見覚えがあった。同クラの
「うん。待たせちゃったかな?」
「ううん。私も今きたとこだから。」
「そっか、良かった。」
「鈴木君は私のラブレターを読んでくれたんだよね?」
上目遣いの彼女を見て可愛いと思う反面、信じられないという思いだった。
彼女は読モをやってると聞くし、いつもクラスの中心にいる人気者だ。
陽キャ代表のような彼女が僕のような陰なる者を果たして好きになるだろうか。
「うん、読んだよ。」
「恥ずかしいな、ラブレターなんて初めて書いたし……。」
「そうなんだ。水木さんに一つ聞いてもいい?」
「ん、何かな?」
「僕のどこを好きになってくれたのかなって。」
水木さんは視線を切ってフェンスの方へ向かうと校庭で部活動に励む生徒たちを見下ろして告げた。
「あの日もこんな風の強い日だったな。」
「あの日?」
「うん、入学式の日だよ。校門から校舎へと続く桜並木があるでしょ。」
「ああ、あるね。」
「私はあの桜の花びら舞い散る中で鈴木君を見かけて一目惚れしたんだよ。」
フェンスをギュッと握って告げる彼女。まるでドラマのワンシーンだ。
僕は幼稚園などのお遊戯会では木の役しかしてこなかったが、彼女はきっとお姫様役だったのだろう。僕のような脇役とは格が違う。
彼女の隣に並び立てるような立派な男ではない、それはわかってる。
だとしても………。
「………。」
「私と付き合ってください!」
「はい、喜んで!」
僕は彼女がほしかったんだ。それに………。
一度も告白なんてされたことはなかったし、何をやってもダメダメな僕はいつもバカにされてばかりだった。
水木さんはそんな僕のことを好きだと言ってくれた。
嬉しかった。だから、僕なりのやり方でこの気持ちを返そうと思った。
彼女の気持ちに精一杯応えよう、初めて出来た彼女を大事にしよう。
そう決意を固めて、水木さんに差し出された手を取った。でも、その瞬間―――背後より笑い声が聞こえてきた。
「ははっ 居酒屋の店員かよ!」
「受けるわww 反応早すぎだろ!?」
「だよなー。いつもどんくさいくせにがっついててキモっ。」
「ちゃんと撮った?」
「もち。これっ絶対バズるよ! さっそくアップしよ。」
梯子の上にある給水タンクの陰よりぞろぞろと人がでてきた。
斉藤君と鬼塚君、それに取り巻きの男子や女子と全員同クラの人だった。
僕はこの時になってやっと気づいた。水木さんの告白が嘘告だったんだと……。
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