第15話 新しい友達!? 異能力者田中現る。
「やばっ 急がないと!」
いつの間にか、朝のチャイムが鳴っていた。…遅刻する! 彼女できるかもとか、童貞卒業できるかもとか、いらん妄想していたせいだ。僕はラブレターをしまって急ぎ教室へと向かった。
…ん?
教室前には出席簿をもった担任教師がいて、ドアの隙間より中の様子を覗いていた。…よし、セーフ! ってこの人もしや、伊吹ちゃんを待ってるの?
僕は先生を横目におなじく気配を薄めて、後ろのドアからそっと入った。
「おらあああああああああああ!!」
…こわぁ。
いつものように血気盛んなクラスメイトたちは何が楽しいのか、殴り合っていた。
「効くかボケぇえええええええ!!」
「結局、残ったのは田澤と鬼塚か………。
なあ、お前らはどっちが勝つと思う?」
「そりゃあ、俺を倒した鬼塚が勝つだろうな。」
「ざけんなっ 俺を倒した田澤が勝つに決まってんだろ!」
…喧嘩なら、外でやってくれよ。
「何だとてめぇ!?」
「文句あんのかっ!!」
「まあまあ、落ち着けよ。」
頬の痩せこけた男は二人の喧嘩を止めてニヤリと笑う。
「どっちがこのクラスを仕切ることになるのか、見届けようぜ。」
うん、どうやら勝った方がクラスのボスになるらしい。
僕は掃除用具入れのある教室の右上隅から全体の様子を観察した。
まずは殴り合ってる二人。
田澤君はリーゼントに金属バットがトレードマークの怖い人。
鬼塚君はドレッドヘアに体(いつも半裸)には入れ墨だらけのヤバい人。
それを囲うようにギャラリーが大勢いて、少し離れたところでは僕を虐めてる斉藤君が女子に囲まれていた。
僕のように所在なさげにキョロキョロしてる。
どっちつかずの生徒も数名いた。
「おい、鬼塚! 負けんなよ!」
斉藤君は鬼塚君に声援を飛ばした。
…二人は友達なのか? 嫌な予感がするな。
僕は田澤君の勝利を切に願った。とその時、
「おはよう、鈴木君。」
美しい笑顔だった。戦場に咲く一輪の花のように。
…相変わらず佐藤君にはドキッとさせられるな。
「おはよう、佐藤君。」
「うん。鈴木君は美術で使う油粘土は持ってきた?」
「まあね。まさか、高校生になって使うことになるとは思わなかったけど。」
「そうだよね。ボクも幼稚園の頃はよく粘土遊びしてたよ。」
僕たちは遠い目をした。
さもあらん。この学校に通う生徒に難しいことはできなかった。
それどころか、逆キレして教師に襲いかかる始末だった。
故に生徒に合わせた教育プログラムが施されているのだ。
「まあ、美術はまだいい方か。」
「確かに。数学なんかは分数の足し算、引き算からやり直しだし、
英語はディスイズアペンからだし……正直言って退屈だよね?」
「うんうん。わかる! 教科書買わなくて良かったかなって思ってるよ。」
僕は激しく同意した。
中学のおさらいだけで高校3年間が終わりそうな感はある。
とはいえ、不満はない。赤点をとることはなく補習を受けることもない。
つまり、探索者活動に力を注ぐことができる。
僕は澪のためにも探索者として稼がないといけない。…夢をかなえるためにも。
「そういや、三時におやつがでてくるけど、あれは一体?」
「ああ、あれは生徒を引き止めるためだって聞いたよ。」
「引き止めるため?」
「うん。おやつがないと、昼食を食べて満足した生徒が勝手に家に帰るんだってさ。」
「………。」
僕は言葉を失った。…酷すぎるな。
僕たちが話をしていると、遠巻きに此方をチラ見してた、どっちつかずの生徒が一人話しかけてきた。
「おお、おはよう。」
「うん、おはよう。」
「おはよう。えーと、田中君だっけ?」
ビクビクと視線を彷徨わせていて、少し挙動不審な人だった。
僕が尋ねると田中君は髪をいじりながら答えた。
「あああ、おお、俺は田中勝喜っていうんだよろしく。」
「僕は鈴木明だよ。」
「しし、知ってる。確か邪神様の加護をもらったんだよね?」
「うん。まあ、たいしたものじゃないけど………。」
「おお、俺もステータスは獲得できたんだけど神様の加護はもらえなかったよ。」
田中君は「スキルは当たりだったけど!」と言葉を足して、ハァァとハンドパワーで近くの椅子を宙に浮かせた。…うん、自慢だね。
スキルとは神の祝福(ステータス)をえた人々に発現した特殊能力、超常の力をさす。
一般的には『異能力者』とも呼ばれてた。
特に強い力が、PKとESPだ。
PK・サイコキネシス、テレポーテーション。
ESP:透視、予知・精神感応など。
それらを持つ者を『超能力タイプ』と呼ぶ。
特に田中君の持つPKは最強クラスだ。
また、えられる確立は10万に1人とも言われていた。
…ガチャガチャと同じだよな。
大抵は外れスキルだけど、ごく稀に当たり(レアスキル)を手にする人がいるし…。
「おおっ!! 鬼塚が勝ったぞ!!」
血まみれの両者、立っていたのは鬼塚君だった。…願い叶わず、か。
ギャラリーはバカ騒ぎしてた。
素手でのタイマンということで、得意の金属バットを使えなかったのが田澤君の敗因だろう。
前歯が二本欠けてアホっぽい顔になった田澤君を見ながら、僕が分析しているとバーン! と教室の扉は開かれた。
「うるさい! 何度注意すればわかるのですか!?
日光猿軍団の猿たちの方が、まだ貴方たちより賢いですよ!!」
ナイフのように鋭い声が虚空を切った。…裏番こわぁ。
伊吹ちゃんの登場で男たちはセカセカと片づけを始めた。
また、担任教師はしれっと教卓についていた。
昼休みになった。
「差出人は書いてないけど……。
この丸っこい字は間違いなく女子の字だな。」
嬉しかった。僕は何度も手紙を読み直した。
今はトイレの個室にこもってる。
はばたけ高校という無法地帯において、唯一のセーフティエリア。
それが特別棟のトイレだ。
不良たちの喧騒も聞こえないし、ここほど落ち着く空間はない。
昼食も、もちろんここだ。
ちなみに特別棟には家庭科室、理科室、音楽室、美術室、情報処理室などがあった。
「……放課後になったら屋上にきてくれ、ね。」
僕は手紙をしまって弁当箱を開いた。…ま、行くしかないよね。
屋上は普段立ち入り禁止になっているところだけど、流石に無視はできないと思った。
「一人で、便所飯デビか?」
「学校では話しかけてこないでって言ったでしょ!」
「ここには誰もいないデビ!」
小悪魔は開き直ったようにそう言った。…仕方ないな。
僕はこの機会に今まで気になっていたことを聞くことにした。
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