第17話 僕は君たちを許さない~斉藤、鬼塚の悪意と僕の決意~






 ※過激な描写が含まれます。閲覧注意です。







「嘘だ、よね……? 水木さん……。」


 ………。


 僕は現実を受け入れることができず、すがように彼女を見つめた。


「もちろん、鈴木君の言うとおり全部嘘だよ。そんなの当たり前じゃん。」


 水木さんは優しく微笑んだ。


 僕の瞳に微かに光が宿った。その刹那―――彼女はぐしゃっと表情を歪めて言った。


「―――私があんたみたいなオタク丸出しの陰キャ野朗を好きになるわけないでしょ!?」


 …………っ。


 心臓にナイフを突き立てられたかのように、その声は僕の心を深く抉り耳にいつまでも残り続けた。かすかな希望は打ち砕かれて、僕は失意のままに膝をついてただ呆然と歩みよる人たちを見つめていた。目ににじむ涙を拭いもせずに。


「ふはっ マジかよ。こいつ泣いてるぞ。」

「ウケるww 本気で玲奈と付き合えると思ってたんだ。」

「もう少し現実を見ようよ。ねぇ 斉藤君この後どうする?」


 …これは君の仕業なのかっ。


 女子を両脇に抱えた斉藤君は最後尾より悠然と歩いてくる。


「そうだな。こういう奴を放っておくと粘着質なストーカーになる恐れがある。」


 僕が睨みつけると斉藤君は薄ら笑いを浮かべた。


 まるで大根役者。水木さんは自分の体を抱いて雑な悲鳴をあげる。


「こわ~い。逆恨みして私に襲いかかってくるかも!」

「ああ、玲奈の為にもここでわからせる必要がある。なあ、鬼塚!」


 鬼塚君は指をポキポキと鳴らしながらニヤリと笑った。


「おうよ。勘違い野朗、覚悟はいいか?」

「鬼塚、顔は止めとけよ。川原の奴に感づかれたら面倒だからな。」

「ああ。にしても健也は頭がいいな、こいつをラブレターで釣るなんてよ。」

「フッ 俺のIQは120あるんだぜ? バカを釣る方法ぐらいいくらでも思いつく。」


 このままでは不味い! そう思った僕は立ちあがって突破口を探した。

 しかし、斉藤君たちは追い込み漁を行う漁師のように一定間隔に広がってじわりじわりと僕をフェンス際へと追い込んでいく。


 ガシャン――背中がフェンスに当たった。


「この前は川原に見つかって校舎裏で酷い目に遭ったからな。」

「ああ。だがこの屋上は立ち入り禁止になってるから、誰も助けにはこない。」

「止めてよ! 僕が何をしたっていうのさ!」


 鬼塚君は僕の胸倉を掴んでフェンスに押しつける。


「うるせぇ いつもあの女に守られやがってからに。俺はお前みたいな情けない野朗が一番嫌いなんだよ!!」

「………っ。やめっ……。」

「おらああああああああああ!!」


 鬼塚君は抵抗する僕を磔にしたのち、何度も腹部を殴りつけた。体格差、身体能力の差は大きく僕が力を入れても振りほどけはしなかった。痛い痛いと連呼するが鬼塚君は笑みを深めて暴行をエスカレートさせるばかりだ。


 ―――僕の中に沸々と黒い感情がわきあがった。


 …レベルが1つあがった程度の力じゃ勝てないのか!?

 僕はいったい、いつまでこいつ等に痛めつけられれば良い!!

 憎い………憎い………憎い………こいつら全員殺したい………。


「良い感情デビな。邪神様も喜んでおられるデビ。」

「ぐっ……。」

「さあ、リアと契約を結ぶデビ。そして、ここにいる連中を鏖殺おうさつするデビよ!」

「うる……さい……黙れ……。」

「ああ” お前俺に黙れって言ったのか!?」


 リアとの会話を聞いて勘違いした鬼塚君はボロボロの僕を引き摺るようにして、フェンスの端へと連れて行った。…壊れてるのか。


「屋上が立ち入り禁止になってる理由を知ってるか?」

「………。」

「ああ、フェンスが破損してるからじゃねぇぞ。

 正解は虐められた生徒が前にここから自殺しただ。」

「お、お前、そいつを突き落とすつもりなのか!?」


 斉藤君が慌てて声をあげると鬼塚君は「俺もそこまでバカじゃねぇよ。」と言ってポケットから白いビニール紐を取りだした。


「峠を攻めたり、チキンレースをしたりはもう古い。

 今の時代、男の度胸試しといったらこれよ!」

「それ、荷造り用の紐………。」

「ああ、この紐を結んで橋からバンジーしてな、誰が一番高い橋から飛べるのか、競い合うんだ。」

「へー、まあその紐なら大丈夫か。」


 …だ、大丈夫じゃないよ!! 

 そのビニール紐を過信しすぎだし、そもそもここは橋の上じゃない!

 こいつらどこまでバカなんだ………。


 鬼塚君は僕の足首にビニール紐を結んでいく。


「嫌だ! 飛びたくない!」

「おっ 元気になったな?」

「僕を突き落とせば、殺人犯になるぞ!」

「ふんっ このぐらいの高さなら俺だって飛んだことはある。」

「下に川が流れていないじゃないか!」

「ごちゃごちゃうっせぇ! 男を見せてみろ!」

「まあ、待てよ鬼塚。」


 僕たちは言い争いを止めた。

 

 鬼塚君の肩を叩いたのは斉藤君だ。


 …嫌な予感しかしない。


「折角だし、鈴木にチャンスを与えてやるよ!」

「チャンス……?」

「ああ、選択肢と言った方がいいかもな。」

「な、何さいったい!?」

「そっからバンジーするか、川原のパンツを盗んでくるか、選ばせてやる。」


 …いいい伊吹ちゃんのパンツだって!?

 そんな恐れ多い......そもそもそんな事したら僕が殺されるよ!!


「で、できる訳ないじゃないか!」

「オナ中の奴らに聞いたが、お前ら幼馴染で家も近所なんだろ!?」

「そうだけど…………。」

「だったら家に忍び込んでパンツ一枚盗ってくるぐらい余裕だろうよ。」

「でも…………。」

「じゃあ、飛ぶか?」


 斉藤君がそう言うと、鬼塚君はまるで猫をもつように学ランの襟首を掴んで僕の体を壊れたフェンスの向こう側へと突き出した。


 高所恐怖症の僕は余りの怖さにびくびくと体を震わせた。


「いいか、落としても?」

「ダメ! あっ そっちの紐を結んでないじゃないか!」

「忘れてたわ。ほら、落とすぞ、落とすぞ!」

「やや、止めて揺らさないで。わかったから………。」


 僕は泣きべそをかいて首を振った。


 そんな僕を見て二人は仲良くハイタッチした。


「いいか、絶対明日もって来いよ! 後、財布の中身ももらっとくな。」


 ―――その2800円を稼ぐためにどれほど苦労したと思っている。


 僕は気づいたら斉藤君の足を掴んでた。しかし、


「おらっ!」

「ぐっ……。」

「じゃあな、腰抜け!」


 鬼塚君は僕の腹を蹴りつけて笑うと、常勝無敗の喧嘩番長のように肩で風を切り去っていった。


 許せない。僕の中の黒い感情は大きくなる。


 メラメラと燃えるこの気持ち......これはおそらく憎しみの黒炎だ。


 僕はこの日、同クラの連中の後ろ姿を見ながら決意した。必ず復讐してやろうと。



 


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