第12話 買取センターへ行こう。














「行きますよ! 明君。」

「待ってよ、伊吹ちゃん。」


 僕たちはダンジョンから脱出するために光に飛び込んだ。


 ―――ふわふわした感覚。僕の体はUFOにさらわれた人よろしく光の中をのぼっていって、直に視界は白く染まった。


 一瞬後、目に映ったのは人気のない公園の景色だった。…ふぅ 出られたな。


 耳元でそっと囁く声がした。


逢魔おうまが時ですね、明君。」

「い、伊吹ひゃん。怖い言い方しないでよ! 

 ただでさえ僕はホラー系苦手なんだから………。」


 伊吹ちゃんの吐息は耳にかかった。…うっ 変な声が。


 彼女の言葉通り、水平線に夕日は沈んで、すでに空は暗かった。


 …ここの公園はヤバいんだ。

 首のない人間がブランコで立ちこぎしてるかもしれないし、

 スケスケの子供の霊が砂場遊びしてるかもしれない!


 彼女は怖がる僕を見て、悪戯っぽく笑う。


「ここ人魂公園は有名な心霊スポットですからね。」

「し、知ってるよ。怪しげな噂はよく聞くから……。」


 …以前は病院がたってたんだっけ?


「その辺に魔物が潜んでるかもしれませんよ?」

「怖いこと言わないで! ただえさえこの公園には、

 F難度のスケルトンダンジョンもあるんだから……。」


 …伊吹ちゃんは好きなんだよな、怖い話。


「知ってますか? スタンピードは昼間より夜間の方が多いんですよ。」

「それはよく聞く話だね、攻略者は皆そう言ってるし。」


 …有名だね。


「ええ、私もいくつかのダンジョンを攻略して検証しました。」

「それでどうだったの……?」

「どうやら、夜間の方がダンジョンダイヤの魔力吸収量は増大し、

 魔物の活動も活発となるようですね。」


 …やっぱ、夜に出歩くのは危険なのか。


 ダンジョンダイヤは空気中の魔素を吸収する。


 そして、許容量を超えたときにパリンと砕け散ってスタンピードを引き起こすのだ。


「そういえばこの前、南の倉庫街で彷徨うレイスが目撃されたと……。」

「あーあー、聞こえない、聞こえない。」


 僕は耳を押さえて聞こえないアピールをした。


「フフッ これで盾の件は水に流すとしましょう。」


 彼女はそう言って楽しげに僕の前を歩いていく。…伊吹ちゃんの機嫌直ったのは良かったけど、何かすっきりしないな。




















 僕たちは帰る途中で買取センターに寄っていくことにした。


 宝箱の描かれた看板が目印だ。…夢があるな。


「おー、広い! ここが買い取りセンターか!」

「そういえば、明君は初めてでしたね。」

「うん。」


 倉庫みたいなとこを想像してたけど、思ったより奇麗なとこだ。…てかっ 床一面大理石だし、儲かってるのか、買取センター!?


 僕は金の匂い嗅ぎつけつつ、伊吹ちゃんと並び歩いていく。


「では私が少し説明しますね。」


 伊吹ちゃんは指をピンっと二本立てた。


「この建物の両隣には何があるか知ってますね?」

「うん。ギルドと道の駅があるよね。」


 …常識だね。


「はい。ギルドでは魔物の素材、鉱物などを加工した武器や防具。

 及びマジックアイテム、ポーション類の売られているギルドショップがあります。」


 …確かロビーの奥の方にあったな。


「対して道の駅では魔物の肉、臓器を加工した食料品。

 及び鉱物、物産品などが売られています。」

「へー、それは知らなかった。」


 …今度ネットで調べてみるか。


「この買取センターで買い取られたのち、品物が両隣に卸されるわけです。」

「なるほどね、繋がってるわけだ。」

「はい。連なってる3棟とも探索者ギルドが所有していますので。」


 …てことは、一番儲かってるのは探索者ギルドってわけだね!


「それで買い取りセンターの利用方法ですが…………それはあおいさんに説明してもらいましょう。」

「えー、ここまで説明したのに止めちゃうの?」

「はい、蒼さんの仕事を取るのは悪いですから………。」


 ちなみに蒼さんとは茜ちゃんのお姉さんだ。


 僕たちの4つ上で高校卒業後はここで働いている。

 

 …さて、何処の受付にいるのかな。


 大勢の探索者で賑わってはいるが、受付カウンターは10以上あるので長い列はできていないようだ。


「お~い、明君こっちこっち!」


 受付のお姉さんが手を振っていた。…うん、あの人だ。


 僕も手を振り返して、一際美人なお姉さんのもとへ走った。


「お久しぶりです、蒼さん!」

「うん、久しぶり。明君も探索者になれたんだね。」

「はい。今日は始めての探索に行ってきました。」

「無事で何よりだよー!

 最初の探索で無茶する子は多いからね。」


 …耳が痛いです。


「明君も同じでしたよ! 今日なんか……。」


 伊吹ちゃんは僕の失態を蒼さんに話し始めた。


「おい。あそこの二人、すげぇ美人だぞ!」

「確かに。俺、あそこに並び直すわ。」


 二人の花笑みに探索者たちの視線も集まった。


 …気のせいか行列ができてるような。


 二人は小さい頃からよく遊んでいた仲良しだ。

 僕たちは同じ道場に通っているし接点も多い。


 でも、僕の話で盛り上がるのは止めてほしい。


「蒼さん。買取してもらっていいですか?」

「うん。じゃあ、探索者カードを提示してくれるかな。」

「はい。」

「確かに。」


 ダンジョンダイヤは探索者ギルドを纏めている、

 探索者協会が管理している為、探索者以外は立ち入り禁止だ。


 よって、売却の際には探索者資格の有無を確認される。


「では、売却する品をこの買取ボックスに入れてね。」


 …うん。何の変哲もない、大きめの箱だね。


 僕は買取ボックスによくわからない草と魔石を入れて、ドキドキしながら結果を待った。

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