第13話 小さいけれどヤバい奴!?











「あっ 魔力草がけっこうあるね。」

「その草は魔力草だったんですか?」

「うん。葉っぱの裏側が紫に染まってるでしょ、これが魔力草だよ。

 薬草は裏が白ね。」


 蒼さんは草を一枚手にとって懇切丁寧に説明してくれた。


「魔力草は50円で、G難度の魔石は1つ100円での買取になるけど大丈夫かな?」

「そうですか……。」

「最近は探索者が増えて魔力草、薬草ともに在庫をたくさん抱えているから、買取価格はこのぐらいになっちゃうんだ。」


 蒼さんは「ごめんね。」と申し訳なさそうに手を合わせた。


 僕の暗い表情を見て、気を遣ってくれたのかもしれない。


 僕は笑顔を言った。


「わかりました! それでお願いします。」

「えーと、魔力草44枚と魔石6個で2800円です。」

「はい。」


 …でも、正直少し落ちるな。

 あれだけ入って2800円か。


 命がけの仕事の割には稼げない、コンビニでバイトしてた方が良かったかな? と僕が考えていると横から声がかかった。


「明君、そう落ち込まないでください。

 初めての探索なら皆、似たようなものですよ。」

「……そう、だね。」


 …伊吹ちゃんのいう通りだ。


「それに自分の力で初めて稼いだお金だし、もっと喜ばないとね。」

「そうですよ。パーッとやっちゃうのもいいかもしれません。」

「いや、パーッとはやっちゃわないけど……。」


 伊吹ちゃんおかげで少しだけ気が楽になった。


…そうだよ、最初から上手くいくわけないよね。

 才能のない僕はこつこつやるしかないんだ。


 蒼さんは笑顔で言った。

 

「ダンジョンで手に入った物なら、大抵の物は買い取ってあげるからね。」

「はい。それでは蒼さんまた!」

「うん。たまには澪ちゃんと晩御飯を食べにおいで!」

「了解です。」


 僕はビシッと蒼さんに敬礼した。


 そして、伊吹ちゃんと一緒に買取センターを後にした。


















「それじゃあね!」

「はい。ではまた明日!」


 伊吹ちゃんはそう言って隣の家に入っていく。


 僕も玄関を開いた。


「おかえり!」


 澪はタタタと走ってきて出迎えてくれた。


 玄関に座り込んで靴を脱いだのち、スリッパに履き替えた。


「ただいま、ご飯は食べた?」

「うん。茜ちゃんが肉じゃがを持ってきてくれたんだ。」

「そっか、良かった。」


 茜ちゃんは余り物だと言って、よくご飯を持ってきてくれるのだ。…ありがたいな。


 僕は澪の頭を撫でて、リビングを通って台所へ向かった。

 

「わ~ 冷蔵庫の中、空っぽじゃん。

 買出しに行きたいけれど、父さんは全然生活費を振り込んでくれないし……。

 いったい何処でなにしてるんだよー!!」


 僕が愚痴っていると、


「お兄ちゃん……。明日から食べる物ないの?」


 と、澪は悲しそうに立っていた。


 …な、何か言わないと。


「大丈夫だよ! お兄ちゃんは探索者になったし、

 だから、ちゃんと毎日食べられるよ!」

「お兄ちゃん、無理だけはしないでね。

 私は給食を一杯食べてくるし、別に食べなくても大丈夫だからね!」

「澪………。」


 澪は小4の割にはしっかりしてるし、思いやりのあるいい子だ。


 …だからこそ、澪の為にも頑張らないとな。


 僕は決意新たに、小さい澪をガシッと抱きしめた。











 僕は新聞紙、ボング肉、塩コショウを持って庭に出た。


 …確かこの辺に。


「あった!」


 物置から七輪と炭を引っ張り出した。


 前にキャンプに行ったときの残りがあって良かった。


 僕の持論。炭で焼けば大抵のものは美味くなる。


「さあ、ボング肉で焼肉パーリィだ!」


 新聞紙をギュッと丸めて上に炭を重ねて、チャッカマンで点火した。


 ボーイスカウトキャンプ経験者である僕にとって、火おこしていどは児戯にも等しい。


 僕のアウトドア好きは父さんの影響だ。


 小さい頃から、渓流釣りやキャンプに連れていってもらって豊かな大自然と触れ合っているうちに、僕もすっかりはまってしまった。


「さて、火加減はよさそうだ。次は肉をカットして………。

 ボング肉の味は豚肉に似てるって聞くし、楽しみだな!」


 僕は手際よくキャンプ用の小さなまな板の上で肉を切っていく。


 そして、うちわで扇ぎつつ、網にカットしたボング肉をのせた。


 …大丈夫か、この肉? 

 ピンクに少し紫が混じってるけど……。

 まあいい。


 両面をじっくり焼いて塩コショウで味付けだ。


「よし、焼けた! うん、匂いはいい。後は味だな………。」


 僕は躊躇ためらいながらも、ええいままよと肉にかぶりついた。


「うん、美味い!! 何だこれ、豚肉より美味いかも!!」


 あの不人気なボングダンジョンの肉がここまでだとは思わなかった。


 同じランク、同じモンスターの肉でもダンジョンによって品質は変わる。


「あそこのダンジョンは大当たりってことか……。

 是非とも攻略して手に入れたい!」


 僕がブツブツ言いつつ、攻略計画を練っていると、


「何を騒いでいるのですか?」


 と、伊吹ちゃんは窓を開け放って此方を覗き込んでいた。


 …え、ええええええええええ!?!?


「い、伊吹ちゃん。前隠して! 見えてるから!」


 僕の座っている庭の正面には伊吹ちゃんの家の風呂場がある。


 …なんてこった! これは流石に不味いよ。


「昔はよく一緒に入っていたではありませんか?」

「うん、小学生の時にね! もう満足したでしょ!?」

「仕方ないですね、明君は………。」


 伊吹ちゃんはそう言って窓を閉めた。


 …大丈夫、湯気で少ししか見えていない。


「私の主様はずいぶんスケベデビなー。」


「ん、何!?」


 声のした右上へ視界をやると―――


 妖精サイズの体。

 背中には小さな蝙蝠こうもりの羽。

 黒く細い尻尾の先端はスペード。


 そして、何より驚いたのは―――そのくせっ毛の美少女は黒のボンテージレオタードを装着していたのだ。


「なな、なんて格好をしてるの!!」

 

 僕は腰を抜かして大声をあげたのだった。





 ※2話と11話のステータスウィンドウに修正を入れました。






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