第40話 素朴な想いが見せた景色
雷華に襲いかかってきた数十本もの砂の触手も全て消し飛んでいく
雷華は何もしていない
雷華の
それが砂の触手の存在力を上回っていただけである
「これが
大きな壁を乗り越えた感覚
存在力だけで見ればほんの少し上がっただけである。
だが、そのほんの少しの差であっても今までの
たった一歩。
その一歩が、途轍もなく大きな一歩であった。
この力ならさっきまで傷一つつけることのできなかった矢代にも十分にダメージを与えることができると確信を持って言えた。
そして、
「想いの純度。どれだけ純粋にその想いを抱いていたか……これが
外界でも
その中に想いの強さを上げていけばいいのではないかと考えられていたが、ある意味で当たっており外れていた。
必要なのは大きさではなく純度
他の想いを出来るだけ排除し、自身の
そのため、どれだけ大きな想いであってもその他の想いが混ざっている低純度の想いでは
雷華の場合、その他の想い―いつの戦いなら抱いている『楽しい』という想いまでも邪念として切り捨て、ただひたすら自分の純粋な想いを元に行動した。
これは、死んでしまった二人の分もその想いに従って生きていくという彼女なりの供養としてやったことであり、これが
「……
「ご丁寧に待っててくれたのか」
雷華が自身の
驚くでも慌てるでもなくただただ感心するように雷華を眺めている。
初めの方は彼の動きに警戒していた雷華であったがいつまでも動かないことを不思議に思った。
雷華がパワーアップしたのは目に見えて明らかだ。
ならばその力に慣れていない今戦う方が勝率が高いはず。
なのに彼は大技の準備をしているというわけではなく、全く動こうとしていない。
そのことを不思議に思いつつも、自身が
「お前の
雷華はてっきり
だが、実際に会得したのは
ならば
矢代の存在力は
その壁を超えているか否は、かなり大きな差であると思っているため、
「タダノナリ損ナイダヨ。……ソレジャア再開シヨウカ」
すると雷華は砂の中に沈み込んで身動きが取れなくなり、矢代の周辺に先ほどよりも多くの砂の触手が形成され、雷華へと殺到する。
しかし、砂の触手は雷華へと襲いかかった直後、またもや全て弾け飛んだ。
砂埃が晴れるとそこには砂に埋まっていながらも、雷を纏っている雷華の姿があり、
「《剛身化》…いや、身体の存在そのものが少し上の次元に変化しているのか」
雷華が身体に込めた
というのも、
そこから
そして、雷華はようやく自分の力を把握してきた。
「《
「ッグ!」
その瞬間、雷華の姿が消えた
いや、矢代は自身が攻撃された事で初めて彼女が砂の拘束を脱したのだと理解できた。
「コノッ!」
矢代は再び雷華を砂で拘束しようとするが、気がつけばもうその場に姿がなく、再び自身が攻撃を喰らっていた。
矢代は雷を纏った雷華を知覚できなかったのだ。
そして、
危機感を持った矢代は自身の周囲数メートルの砂を盛り上がらせた。
これなら障害物が邪魔で近づけないし、障害物を越えようとしたら必ず速度を落とすからこちら側から攻撃しやすい。
それに対して雷華は障害物を飛び越える選択をとる。
しかし、そうなると空中に飛び出すこととなりスピードが落ちてしまう。
「《
矢代を囲んでいた周辺の砂がさらに盛り上がり、まるで巨大な怪物が喰らいつくかのように雷華に襲いかかる。
砂の触手のような点の攻撃では捉えられないとして面での攻撃を仕掛けてきた矢代。
空中で身動きが取れない雷華はそのまま攻撃を喰らうかに見えた。
だが、雷華の右腕で膨れ上がった雷を見て矢代は危機感を覚える。
「《
雷華が砂に喰われるのと矢代に巨大な落雷が落ちてきたのは同時であった。
雷華を捕らえた砂の塊、その一部が赤く変色し、砂を溶かしながら雷華が出てくる。
「……避けたか」
雷華の目の前、矢代が先ほどまでいた場所に彼はおらず、その数歩後ろに矢代がいた。
砂の跡を見るに流砂で移動したのだろう。
「完全ニハ避ケレナカッタガナ」
さっきの雷はかなりの存在力があったのか、矢代の体の右半身は大火傷を負っており腕の末端は炭化しているほどであった。
しかし、そのような大怪我も逆再生しているかの如く治癒されて行く。
「一つ聞きたいんだが………お前、誰だ?初めに戦っていた奴じゃないだろ」
雷華は不思議に思っていた。
最初期の時は大火傷を負って痛がっていたのに存在力が急増した後、完治しており動きが大雑把になっていたこと。
彼女が
都度2回、矢代は何かしらの変化を遂げていた。
さらに、
そして、一つは明らかに弱っていたのだ。
「咎人ダヨ。タダノ」
「……そうか」
相手が何も答えるつもりがないと悟った雷華は再び戦闘体制をとり、体に今まで以上の雷を纏った。
「コレデ終ワリニシヨウ」
次で最大威力の攻撃をぶつけると察した矢代もまた、地面に手をつけ最後の攻撃を行った。
「《
矢代の形成した領域、大地が脈動するかのように蠢き、まるで大嵐の海上かのように大きく唸り出した。
そこはもうただの砂漠地帯ではない
そこにいるもの全てを飲み込み殺す死の砂海だ
それと同時に矢代の体はまるで風船が萎んでいくかの如く萎れていく。
対する雷華はこのような大きく荒れる砂の海の上であって、慌てることなく集中していた。
そして、纏った雷を圧縮していき、バチバチと放電していた雷はまるで光の膜のように静かに漂うようになった。
「《
雷華の足元の砂が爆発したかのように爆ぜる。
そして、矢代が認識できないほどの速度で彼の腹に両手で掌底打ちをし、圧縮された雷が外へ放電することなく矢代の体の中で暴れ回った。
攻撃が終わると、矢代の腹には巨大な穴があき、その周辺は炭化しており、いつの間には唸っていた砂海も止んでいた。
「コノ戦イ、オマエノ勝チダ」
血を吐きながらもそう言った矢代は体を治癒することなく倒れて行った。
それから矢代が動くことはなかった。
それを見届けた雷華はその場で軽く黙祷を行う。
水瀬七菜香と水瀬風間、そして堤矢代に対して行ったことであった。
「あいつらのところに行くか」
そして雷華はその場を去っていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「意外としぶといね」
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
三水対ヒカリ、巧、紡志の戦いの始まって幾ばくか時間が経っているが、三水は息も切らしていないのに対し、ヒカリは息を荒らげている。
ヒカリが雪の領域を広げようとするが
「君の
三水が酸の
「《酸弾》」
三水の周りに形成された酸の塊がヒカリに向かって放たれる。
ヒカリも雪の壁を形成してこの攻撃を防ぐが、数発当たっただけで雪の壁が溶けてしまい、残りの攻撃を通してしまいヒカリに襲いかかる。
ヒカリはそれを必死に避け、三水の方を見てみると新たな酸の塊が新たに形成されており、ヒカリの方へ放たれ続けていた。
「領域型は自分の領域以外だと
ヒカリは防御しても無駄だとしてなんとか避けていくが、そうすると自分の雪の領域が溶かされて狭まっていき、なんとか攻撃しようにも領域外にいる三水に攻撃する手段が少なく、届いたとしても簡単に避けられてしまう。
「くそっ!」
思わず悪態をつくヒカリだが、それでも攻撃は止む事はない。
そんな時
「うおっ!危な!」
三水が突然その場から退避したことで、攻撃は止む。
三水は攻撃された方を見るとそこには瓦礫に姿を隠した巧の姿があった。
「ちっ。惜しい」
巧は瓦礫に身を隠しながら、ヒカリに集中していた三水に毒を浴びせようと念力で飛ばしていた
しかし、それを直前で三水に感知され避けられてしまっていた。
姿がバレた巧だが、かなり領域が狭くなってしまったヒカリを狙われるのはまずいと思い、再び念力に毒を練り込み三水に向かって放った。
「俺剛身化会得してないから、君の毒喰らったら終わりなんだよねー」
三水は見えていない毒を方を見ながら焦ったような口調をしていながら、彼はその場からは動かずどこか余裕そうな態度であった。
そして、そのまま三水は巧の毒を浴びる。
攻撃を当てた巧はそのことを喜びつつ、これで勝てないまでも戦いを有利に進めることができると思っていた。
「まあ、喰らったとしても
しかし、その場には何事もなかったかのように佇む三水の姿があった。
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