第39話 暴虐ノ轟雷
「《
「《混濁の砂状壁》」
雷華は雷の拳で攻撃するが、それを男―
「ヒヒヒ!無駄無駄。僕ニこんなのは効かないヨ」
砂の防壁が消えるとそこには雷華に向かって嘲笑を浮かべた矢代がいた。
これまでも何度も攻撃を仕掛けた雷華であったが、矢代はその全てを砂の防壁で防御し一撃たりとも被弾していない。
というのも雷華の速度に反応しているわけではなく、矢代の足下の周囲数十メートルが砂漠のような砂場に変わっており、雷華はそれに足を取られて思うように速度が出せない状況であったからだ。
そんな雷華にとっては手詰まりのような状況の中、彼女の顔には軽い落胆の表情が浮かんでいた。
「おい。もう終わりか?」
「アぁ、そそそれハ俺のセリフだ!どどれダケ攻めても俺に掠りモしてないジャないか!さっさと諦メテ大人しくここ殺さレロ!」
「……何かしてくるのかと思って待ってみたら何もないのかよ。期待して損したわ」
その瞬間、雷華の姿が掻き消える突然矢代の目の前に現れる。
矢代も驚きながらも咄嗟に砂の防壁を形成するが、すでに雷華は矢代の横に移動しており、その脇腹に蹴りを放つ。
「たかだかこの程度の砂であんなに速度落ちるわけないだろ」
雷華は相手がどういう攻撃をしてくるかを待ち構えるために手加減をしながら戦っていた。
それにも関わらず、相手も手を抜いて一向に何も仕掛けてこないことに失望したのである。
矢代はその攻撃によって吹き飛ばされたが、転がることなくそのまま着地する。
矢代の顔にはすでに嘲笑など消えており、怒りに満ちていた。
「ほら、さっさと本気出せ」
「手加減してアゲてたのになんダその言い草ハ!もう頭ニきた。
「うるせえ。お前のその舐め腐った目を焼き切ってやろうか?」
雷華は相手がようやく本気を出したことに歓喜しながらも相手の動きを見逃さないように神経を張り巡らせていた。
「《土砂喰らい》!」
矢代がそういう時雷華の目の前の砂が盛り上がり、二階建ての一軒家を丸々呑み込みそうな規模の巨大な土砂の津波が雷華に襲いかかってくる。
彼女はその場から下がることでそれを回避しようとする。
「《
雷華が下がろうとした場所の地面から砂の杭が生えてくる。
雷華はそれを難なく躱すが、気がつくと雷華の後ろにも前方と同じく砂の津波が迫ってきていた。
「そのママ埋もれてしマエ!」
「《集球熱雷》×《かける》5」
砂の津波が迫ってくる中、雷華は五つの雷の塊を砂の津波に向かって放ち、それらは触れた砂を溶かしながら進んでいった。
しかし、莫大な砂の前では焼き石に水。
《集球熱雷》で空いた穴もすぐに他の砂によって埋もれてしまう。
そして、雷華がいた場所も含めあたり一帯が砂で覆われた。
「ヒヒ!調子に乗るカラこうなるんダヨ!」
雷華が砂の下敷きになったと思った矢代は歓喜の笑みを浮かべていた。
「サテ、ああ主様に報告ヲししに行コ……ガッ!」
その場を去ろうと歩き出そうとするが、突然矢代に向かって落雷が直撃する。
「ななナンデ…」
「《爆雷拳》」
「グハッ!」
雷華はいつの間にか矢代の目の前におり、矢代はなんとか防壁を形成しようとしたが間に合わず、、彼の腹にボディーブローが直撃する。
そして、雷華の拳が矢代に当たると雷が爆発し、その衝撃で矢代は後ろに吹き飛んでいく。
どうやって雷華が砂の津波を避けたのか。
それはただ単純に近くのビルの窓から建物内に入って凌いだだけである。
矢代には砂の津波が障害物となって見えていなかったのだ。
そして、砂の中に紛れ込ませた《集球熱雷》目掛けて通電させ、その線上にいた矢代を感電、怯んだ隙に接近して《爆雷拳》で攻撃したのである。
「《アリ地獄》!」
吹き飛びながらも矢代は雷華を砂に飲み込み、腰まで砂に沈みこませる。
「イタイイタイイタイ!ふざけルナ!くそ!殺す!殺してヤル!」
矢代は雷華からの攻撃をくらったことで全身大火傷を負っており、到底生きているとは言えないほど重症であったが、それでも喚くだけの元気はあった。
雷華はその纏っている雷の範囲を狭くして雷を圧縮する事で熱量を上げ、砂を溶かして砂の拘束を脱する。
そして、そのまま痛がっている矢代へと攻撃しようとする。
「俺ニぃぃぃぃ!近づクナぁぁぁぁ」
しかし、雷華は足を砂でできた触手に絡め取られ、そのまま遠くへと放り投げられる。
(さっきの攻撃といい、こいつあんなに莫大な量の
雷華は矢代のこれまでの行動や大規模な
だが、先ほどの砂に沈める攻撃や今の
それが示唆する事は矢代が領域型の
雷華は剛身化していたことと体勢を整えて着地した事で無傷であったが、余程近づかれることが嫌だったのかかなりの距離を飛ばされたようだ。
「「えっ、雷華!?」」
「七菜香と風間か。なんでここにいるんだ?」
雷華が飛ばされた先にはびっくりした表情の水瀬七菜香と水瀬風間の二人と、その周りに倒れている何人がいた。
「いや、なんか強そうな奴がいたから戦ってたんだが、結構ヤバそうな相手でな」
「「手伝おうか?」」
「いや、俺一人でやる。というかもう向こうは満身創痍だしな」
吹き飛ばされるまでの攻撃で矢代は全身大火傷を負っており、もう勝ちが決まっていると思っている雷華。
さっきの攻撃も最後の足掻きだと思っており、あの怪我なら何もしなくても死ぬだろうと思っていた。
「あー、七菜香と風間。すまないが夢幻の杜のメンバー探してくれないか?俺は相手がどうなったか確認……っ!!」
「っ!!なに!?」
「っ!!とてつもない存在力」
だが、突然矢代がいるであろう場所から強大な存在力を感じ取り、三人は警戒度を最大まで引き上げる。
「雷華、相手は満身創痍じゃなかったの?」
「そのはずなんだが」
そしてその強大な存在力の持ち主が雷華たちの目の前に現れると、そこには矢代がいた。
先ほどまで負っていた全身大火傷はなぜが完全に消えている。
「ミツケタ。ヨクモオレニケガヲオワセタナ!」
「火傷が治っている?どういう事だ」
雷華は矢代の変化に戸惑っていた。
「シネ」
すると、矢代は頭上に大量の野球のボールサイズの砂の球を形成し雷華たちに向かって放つ。
突然の変化には戸惑ったけど、また倒せばいいと考えた雷華は攻撃を避けながら矢代へと接近し頭に向かって蹴りを放つ。
だが、矢代はそれを片手で難なく受け止める。
雷華の蹴りを受け止めた矢代であったが、その瞬間彼女は脚を覆っている雷を増加させ大量の雷を矢代に浴びせて感電させる。
今までの戦いから矢代は剛身化を会得していないと思っている雷華はこれでまた決着がついたと思っていた。
しかし
「オレニハモウソンナモノハキカン」
「なに?」
矢代は平然とそれを受けていた。
「グッ!」
まさか無傷で耐えられるとは思わず固まってしまった雷華は、その隙をついて放たれた砂の球を喰らい、そのまま数メートル吹き飛ばされる。
「《水刃》」
「《風刃》」
矢代はそのまま雷華に追撃を与えようとしたが、七菜香と風間が彼に向かって攻撃を与える。
だが、それすらくらっても矢代は無傷であった。
「ナンダオマエラハ」
「うっそ!?」
「全く効いてない」
「ジャマダ。《
「グフッ!」
地面から生えてきた砂の槍に反応できず風間は胸を貫かれ、砂の槍はそのまま風間を砂で覆い尽くす。
少し経つと風間を包んだ砂がだんだんと赤黒く変色していった。
「風間!?風間を離せ!《
七菜香は弟が捕えられたことに激情しながら矢代に攻撃するが、砂の防壁によって遮られる。
雷華もまた攻撃しようも近づくが砂に捕らえられてしまう。
「ゴフッ」
そして、七菜香もまた砂の槍に貫かれ、覆われていった。
「《
雷華は纏っている雷の
「このやろう!」
雷華は、矢代が風間と七菜香に怪我を負わせたことに怒っていた。
「《
雷華は矢代に殴りかかるが砂にやって遮られる。
「《
そのまま、あたり一帯を侵食するように拡がる莫大な砂に押し切られるようにしてビルの壁に叩きつけられ、ビルの中に転がり込む。
雷華は大きな怪我はなかったがその表情は暗かった。
それは彼女の今までの行動に対する後悔であった。
「…少し天狗になっていたのかもな」
雷華は仰向けに転がったまま自責の念に駆られていた。
水瀬姉弟の二人はあの状態では到底生きていないだろう。
様子が変わった矢代に手も足も出ず、二人を死なせ、自分は今も無様に床に転がっている。
雷華は内界で初めて
全て独学、感覚で
だからか、何があっても最終的に自分が勝つと驕っていたのかもしれない。
〈未知の強者と戦いたい〉
自分の想いに忠実に従って生きてきた。
その結果がこれだ。
すぐに殺せたはずなのに本気で戦いたいがために手を抜き、相手を挑発した結果、自分は簡単にあしらわれ、関係のない二人の死者を出した。
自分ことを人殺しと責め立てる人もいるだろう。
自分のせいで死ななかったはずの七菜香と風間が死んでしまったという自覚はある。
ならこの想いは悪なのであろうか
「いや、これが俺の心。生きる原点だ。俺自身だろうとそれは否定させねぇ」
〈未知の強者と戦いたい〉
ならなぜこのようなことになったのか
「俺が弱いからだ。俺が弱いからあいつらが死んだ」
弱いくせに調子に乗ったから
弱いくせに手を抜いたから
弱いくせに周りを巻き込んだから
「もっと強く」
ならばもっと強く
誰にも負けない力を
誰にも負けない夢幻を
誰にも負けない想いを
「あいつらが死んだのは俺のせいだ。ならせめて、俺にとって意味のある死にしよう。…それが、俺の贖罪だ」
自己満足だろうが仇討ちのためではなく、あいつに戦って勝つ。
そのために雷華は再び立ち上がった。
(このままじゃあいつには勝てない。なら、今この場で強くなる。目の前に成功例がいるんだ。いけない事はない!)
矢代に立ち向かうためにビルの外に出てみると、そこには一面砂で覆われていた。
「もうやつの領域は作られているか」
「ミツケタァァァ!!」
雷華を見つけた矢代は数十本の砂の触手で攻撃を仕掛けてくる。
「《
雷華は剛身化に使っていたリソースすら使い、存在力を底上げした雷を纏った。
もちろんそんなことをしたら自分の体が感電して火傷を負うがそんなリスクを恐れていては勝てないと覚悟を決めていた。
砂の触手を避けていくがあまりにも数が多く幾つかは避けきれずに体を掠め、傷を増やしていく。
(今のままじゃ勝てない。もっと力を、想いを込めろ)
「もっと」
戦いたい勝つ戦いたい戦いたい勝つ戦いたい痛い疲れた戦いたい戦いたい眠い戦いたい痛い戦いたい戦いたい不甲斐無い戦いたい戦いたいしんどい戦いたい疲れた戦いたい勝つ戦いたい
雷の存在力が上がり、砂の触手に当たらなくなり、攻撃にリソースを割けるようになる。
「もっと!」
戦いたい戦いたい戦いたい勝つ戦いたい痛い戦いたい戦いたい戦いたい痛い戦いたい戦いたい不甲斐無い戦いたい戦いたいしんどい戦いたい疲れた戦いたい勝つ戦いたい戦いたい眠い戦いたい戦いたい戦いたいしんどい戦いたい戦いたい戦いたい
さっきまで壊せなかった砂の触手を破壊できるようになり、矢代へと段々と近づいていく。
「もっとだ!!」
戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい戦いたい
矢代に攻撃が届く。
存在力が上がったからか、さっきまでと違い攻撃が通じるようになっていた。
「もっと戦わせろ!!」
「ヒィッ!」
雷華の気迫に矢代は思わず悲鳴を漏らしてしまう。
さっきまで自分を傷つけることなどできなかっにも関わらず、自身の雷に焼かれながらもものすごい速度で存在力を引き上げながら、まるで狂犬のように笑みを浮かべながら攻めてくる彼女に、彼は洗脳されながらも本能的に恐怖し一歩後ずさる。
そのまま雷華は自分の想いをさらに昇華させていき
雷華の
「
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