第29話 拡大解釈と剛身化


「じゃあ次は拡大解釈エクステンドについて教えるぞー。あー質問は全部終わってからするからそのつもりで」


 雷華は破壊した鉄柱と砂柱を元に戻した後戻ってきて拡大解釈エクステンドの説明を始める。


夢幻ヴィジョンで形成する時は明確なイメージが必要だが、ミスリルとかアダマンタイトみたいな空想の物質はいくら明確にイメージしても形成できない。これは外界でも何年も検証していて出来ていないから出来ないものだと考えていい。だから俺たちは現実にある物体を夢幻ヴィジョンとして形成している。そして、夢幻ヴィジョンで形成した物も現実と同じ法則に縛られている。炎の夢幻ヴィジョンで鉄を一瞬で溶かすなんてできないし、氷の夢幻ヴィジョンで人を凍死させるのにも時間がかかるし、鉄の夢幻ヴィジョンもほっといたら錆びる。…拡大解釈エクステンドはそんな様々な物にある法則、その一部だけを強化することができる。…こんなふうにな」


 雷華は手のひらに雷を纏って鉄柱へと手を伸ばしていく。


 すると


 急に鉄柱の方へと雷が向かっていった。


「俺が操作しているわけじゃねぇぞ。今のは静電気が起きる原理、それを強化した。雷の熱量を強化すればさっきみたいに鉄を溶かすこともできる。制限解釈リミテッドとは違って現実にないものを夢幻ヴィジョンとして形成しているわけだから拡大解釈エクステンドの方が想力オドの消費量も多いし、会得難易度も高い」


「……あのー」


「ん?どうし……」


 説明していた雷華にヒカリが声をかけた。


 その声に反応してヒカリを方を向くと髪を逆立たせたヒカリの姿があった。


 静電気の原理を強化したためヒカリたちの方にも静電気の力が届いていたのだ。


 そのためみんな下敷きでゴシゴシ擦った後のような髪が逆だった状態になっていた。


 雷華はちょうど鉄柱の方を見ていたため見えていなかった。


「なんか不思議な感覚だな」


「わわ!巧なにこれ!」


「おい紡志今近づくな!いてぇ!」


「びりびりする」


「ああ、すまんすまん。見えていなかったよ」


 ハハハッと笑いながら雷華は夢幻ヴィジョンを消した。


 同時に刻たちの状態も元に戻った。


「……ん」


「ぎゃあ!おい凛!なにするんだ!」


「まだびりびりしたから」


 いや、ちょっと影響が残っていたようだ


「よし!じゃあ最後、剛身化について教えよう」


 雷華は切り替えるように手を叩いた。


「って言ってもさっきまで俺が使っていたんだがな。簡潔に言うと剛身化ってのは体の存在力を上昇させることだ。これによって俺は雷に触れていても感電していない。ヒカリも夢想アーツを発動している時は寒くないはずだ」


「……確かに」


 雷華の問いにヒカリは思い返してみると確か夢幻ヴィジョンを使っている時は少し寒かったのに夢想アーツを発動させるとそういうのがなくなっていた。


「これを発動させていれば暑くも寒くもなくなるし夢幻ヴィジョンの影響も受けにくくなる」


 雷華は炎の夢幻ヴィジョンを形成し、それに自分の腕を突っ込んだ。


 どう見ても大火傷を負う状況であるが彼女は涼しい顔をしている。


 そして、炎から腕を出すと綺麗な肌のまま火傷痕なんて一切なかった。


「存在力を上げていけば銃で撃たれたとしても無傷で凌ぐことができる。だが、いかんせん剛身化が広まったのが最近だし、なぜか会得しても誰も情報が刻まれなかったから原理すら分かってないんだ。存在力を上げているって言うのもあくまで仮説だしな。だから会得するのがとても難しくて外界でも会得している者は少ない。俺は剛身化を会得しているけど、感覚で会得したからこれについてはお前らに教えられることはほとんどない。自力で頑張ってくれとしか言いようがないな。…これで全部の説明は終わり!じゃあ質問ある奴はいるか?」


 その問いに巧が声を出した。


制限解釈リミテッド拡大解釈エクステンドって同時に使えるのか?」


「使えるがかなり難しいぞ。俺でもそれができるのは数人しか知らんからな」


制限解釈リミテッドの条件を2つ以上つけることは?」


制限解釈リミテッド拡大解釈エクステンドも2つまでしか重ね掛けできない。それに重複して使っている時はもう一方は使えない。…例えば…《炸裂空雷》」


 雷華の手のひらに小さな雷の塊が形成される。


「『小さな球』の範囲指定に『物に触れる』という条件をつけた夢幻ヴィジョンだ。これを放つと」


 雷華はそれを鉄柱へと放ち、それが鉄柱に当たると


 今までで一番大きな衝撃が起こった。


 その衝撃で周りに残っていた砂柱の残骸も全て吹き飛んでいた。


想力オドの消費量は上がるがその分存在力もかなり上がる。そしてこれにさらに制限解釈リミテッドを掛けようとすると」


 雷華はもう一度炸裂空雷を作りそこにさらに制限解釈リミテッドを掛けようとするが


 急に夢幻ヴィジョンがバチンッと弾け、消えてしまう。


「こんな風に夢幻ヴィジョンが消えちまう。ただただ想力オドを消費してしまうだけだ。だから3つ以上の重ね掛けはできない。……他に質問はないか?」


 続いて紡志が躊躇いがちに手を挙げた。


「あの…少し気になったんですけど。……制限解釈で『自分の夢幻ヴィジョンの影響を受けない』って条件をつけることはできないのですか?そうすれば剛身化を会得しなくてもいいと思うのですが」


「『自分だけ影響を受けない』っていう対象を絞る条件を付けることは出来ない。『何々だけ影響を受ける』ってのは問題ないんだが、『何々だけ影響を受けない』っていうのは『それだけ対象から外す』というより『その他全てを対象にする』っていうか感じだからな」


「……えっーと」


「まあ、この制限解釈リミテッドの本質はマーキングなんだ。『指定した範囲のみ存在できる』『指定した物に接触する』。マーキングだけを避けるということはできない。だから『何々だけ除外する』っていう条件は付けれないんだ」


「……だいたい分かりました。ありがとうございます」


 その後、紡志の質問を最後に誰も手を上げるものはいなかった。


「他に質問はあるか?………ないか?…本当にないな!?…よし説明は終わりだ!それじゃあ戦おう!」


「「「「……へ?」」」」


 脈絡なく急に戦おうと言われたため刻たちは全員頭にハテナマークを浮かべているなか、雷華は先ほどとは打って変わってとても生き生きした顔をしていた。


「ああ、安心しろ。俺も夢想アーツは使わずに戦うから大怪我はしないと思う。…たぶん」


 みんなが考えていることとは少しズレたことを言う雷華。


 しかもそれはそれでとても安心できる内容ではない。


 たぶんと言っていた時、少し視線がずれていたため自信がないのだろう。


「いや、なんで雷華さんと戦うというはなしになるんですか?」


 雷華が少しズレたことを言っていたからなのかヒカリが咄嗟にみんなが考えていることを口を出した。


「俺が戦いたいからだ!説明してる時だって戦いたくてうずうずしていたのを我慢してたんだぞ」


「いや、理由になってないのですが」


「俺はな、〈未知の強敵と戦いたい〉って想いから夢想アーツを会得しているんだ。まだ、戦ったことのないお前たちと戦うことをどれだけ楽しみにしていたか」


「…めんどくさ」


 凛はとても嫌そうな、そして諦めの雰囲気を漂わせていた。


「諦めた方がいいよ。夢想アーツを会得するってことは相当強い想いだから」


「俺はお前と一番戦いたいんだがな!」


「………むり」


「そこをなんとか!」


「…………はぁ。一回だけなら」


 凛は不承ながら雷華の提案を受けて前へと出ていく。


その顔には刻たちも今まで見たことがないほどありありと不満げな顔をしていた。


 雷華は楽しみだったものがついに目の前に来たかの様にワクワクしていた。



 凛と雷華はお互い10メートル離れた位置で向かい合っていた。


 観戦する刻たちは余波が来ないように訓練場の壁際まで移動していた。


 ヒカリだけ開始の合図をするため前に出ている。


「準備はいい?」


「いいぞ」


「……5分。これ以上はしない」


「えー。もっと戦おうぜ」


「無理」


 凛の顔つきはとても真剣だった。


 誰になんと言われようと曲がることのない意志。


 自分と同じく強い想いがそこから垣間見えた。


「…しゃあねぇ。俺が頼んでる立場なんだしな。戦わないよりいい。凛の要望通り5分間だけだ」


 だからこそ、彼女は凛の言葉を了承した。


「それじゃあ」


「…だから」


「始め!」


夢想アーツ〈飽くなき轟雷〉」


 凛と雷華は10メートルも離れていたのに、気がつくと雷華は凛の目の前にいた。


 ヒカリとの戦いのの時よりも速い速度で接近していたのだ。


 全身に雷を纏っており、右腕を引いて右ストレートを放とうとしている。


「始めっから本気でいかせてもらう!」


 雷華の右ストレートは凛の左肩を狙っていた。


 顔を狙わないあたり多少は手加減しようとしているのだろう。


 その攻撃は凛の左肩に当たるが、凛も開始と同時にバックステップしていたためダメージは最小限に抑えることができていた。


「《猛虎》」


 速攻してくると予想していた凛は予想以上の速さに驚きつつも警戒レベルを引き上げた。


 すぐに夢幻ヴィジョンで獣化しようとする。


「遅い!」


 しかし、獣への変身は一瞬では出来ず少し時間がかかってしまう。


 凛が虎の獣人になろうとしている隙をついて雷華が追撃をして中段に蹴りを放った。


 変身直後であり、身動きが取れない凛に向かって放たれたからは凛に直撃する。


 しかし、凛はそれを腕でガード。


 ガードしても雷を纏っている雷華に触れようものなら感電して戦闘が終了してしまうが、凛は耐えていた。


 凛はそのままカウンターとして右手で貫手を放った。


 雷華それを首を傾けながら避けて後ろへと後退した。


「やっぱり耐えたか。剛身化自体獣創者ビースを模倣してできたものだし当然か」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る