第28話 夢想と制限解釈
あの寓話獣との戦いから大体一週間経ったある日
北方基地での寓話獣との戦いが終わり、西方基地に戻った刻たちは今日も訓練している。
ヒカリは戦いの次の日に目覚め、訓練にもすぐに戻ってきたが、巧は怪我をしていたため癒えるまでは瞑想だけしていた。
幸い巧もそのまで深い傷ではなかったため数日で訓練には復帰している。
「全員揃ってるなー。一旦集まれ」
そう言いながら訓練場に姿を現したのは雷華だ。
各々で鍛練していた刻たちは雷華の前に集合する。
雷華は以前会った時と同じ胸当てや手甲足甲を身につけた軽装の格好をしていた。
烈火たちはあの戦いの後処理などで忙しため少しの間来ることができず、その穴埋めとして雷華が指導してくれることとなったのだ。
「烈火は色々と忙しいそうだから俺だけで訓練始めるぞ。それじゃあまずはお前たちが気になってしょうがねえ
「は、はい!」
「前に出てこい。俺と一戦するぞ。戦いながら
そう言いながら訓練場の中央へと向かう雷華はちょっとウキウキした表情をしていた。
突然呼ばれたヒカリは驚きながらも前へと出ていき、彼女と向かい合うようにして立った。
双方は大体10メートル離れている。
「いつでもかかってきてくれていいぞ、でも
「はい……
ヒカリの周囲3メートルが雪に覆われ、そこだけ大雪が降っているようであった。
「…いきます」
その言葉に雷華は満面の笑みで応える。
「《名残り雪の白腕》」
ヒカリの周囲に積もっている床から一対の大きな雪の腕が生え、雷華に襲いかかる。
しかし、彼女は動かなかった。
雪の腕が雷華に向かっているが全く動じていなかった。
彼女は
そして雷華に雪の腕が当たる直前
「《
「っ!!《名残り雪の白囚人》!!」
激しい轟音と共に彼女は物凄いスピードでヒカリの後ろへと回り込み、彼女に手を伸ばそうとしていたが、寸前でヒカリの雪が雷華の腕を捕えられていた。
「へー。これがヒカリの
「…は、はい」
(びっくりしたー。雪の探知がなかったら反応できなかったんだけど!?どれだけ早いのよ!っていうかこの人なんで生身でこんなに早く動けるの!?)
雷華の話にヒカリは心ここに在らずといった感じであり、内心とても心臓がバクバクしていた。
雷華を捕まえることができたヒカリであったが、辛うじて雪の探知に引っかかり反射的に雪に絡めとっただけである。
「まあ、
「えっ?」
雷華を捕えていた雪が弾け飛び、気がつくと雷華は戦いが始まる前の場所に戻っていた。
先程とは違い、存在力が増加しており、目に見えてわかるように雷を身に纏っている。
明らかに体が感電している状態なのに、彼女は何事もないかのようにピンピンしていた。
「3秒後、もう一回さっきと同じように動くからな」
「っ!」
「3…2…1」
「《
ヒカリは自身の後方の下から雪の杭が多数迫り出させる。
予想通りさっきとは比べ物にならないくらい速い動きに、勘であるがなんとか合わせて
存在力が増えていることからさっき以上の速さで動けると予想していたヒカリは、捕えられないと考え近づけないようにした。
しかし、
「こんな感じで
雪の杭はヒカリが壊されたと知覚する間もなく一瞬で木っ端微塵になり、雷華はヒカリの後頭部に手を向けていた。
どう見ても王手だ。
ヒカリは全く反応できなかった、雪による探知も脳が理解する前にこの状態になっていた。
刻たちから見ても雷華の動きは全く目で追うことなどできず、辛うじて残像を見ることができる程度であった。
「
雷華はヒカリに向けていた手を下ろし、纏っていた雷を霧散させる。
おそらく
それに合わせてヒカリも
「そう簡単に会得できるものじゃねぇ。危険な時こそ強い想いは発露する。だから、訓練で
雷華は刻たちに体を向ける。
雷華の説明に刻たちはヒカリが
「俺が今から教えるのは
「
雷華は指で数えながら説明していきヒカリが雷華の質問に答える。
「そうか。…ヒカリ。あんたはまだその
「あ、はい」
ヒカリもここ数日
「
雷華は真剣な表情で言った。
それに釣られて刻たちの表情も引き締まった顔になった。
「じゃあ実践しながら一つずつ教えていこうか」
そう言うと雷華は刻たちから離れたところまで歩いた後地面に手をつける。
「《鉄柱》《砂柱》」
雷華の目の前に高さ1メートルの鉄の柱とそれを囲むようにして同じく高さ1メートルの6本の砂の柱が地面からせり上がる。
そして刻たちの前まで戻って行った。
「
そう言うと雷華はさっき彼女が立てた柱に向かって手を向けて
「《雷塊》」
雷の塊を放った。
中心の鉄柱に向かって放たれたそれは手前にある砂柱に当たり、放電したのち落ち着いた。
当たった砂柱はその衝撃で崩れ落ちていた。
「これが普通の
「あ、僕できます」
「お、ありがとな!えーっと…」
「刻です。黒鉄刻」
「おお!じゃあ刻。よろしく頼む」
雷華に頼まれた刻は彼女と同じようにその場で地面に手をつけ
「《砂柱》」
先程と同じ場所に高さ1メートルの砂の柱を形成した。
「ありがとな。じゃあ次は
雷華は手のひらにビー玉サイズの小さな雷の塊を形成する。
それはさっきの《雷塊》と異なり、雷とは思えないほど穏やかであった。
彼女はまた柱に向かって放ち、放たれた雷の塊はさっきと同じように砂柱に触れるが、そのまま吹き飛ばして進んでいき、鉄柱に触れると雷の塊に触れたところから鉄が溶け、そのまま貫通して消えていった。
先程とは全く違う威力である。
「今のは雷の形成を『小さな球』の範囲内っていう制限を掛けたんだ。そうしたらあんな感じになる。まあ、存在力が上がることで雷が持っている熱量が鉄を溶かすまで上がったんだ。ちなみに『俺が触る』っていう条件をつけると」
雷華は鉄柱の方へと歩いていき、それに触れると
《雷塊》以上の規模で雷が炸裂し、その余波で周りにあった砂柱が全て崩れ落ちた。
「この通り。初めに放った《雷塊》よりも威力が上がる」
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