第14話 烏の饗祭のリーダー
刻たちが北方基地へと向かっていた頃、烈火は一人別行動をとっていた。
烈火は今、かつて多くの車が走っていたであろう大きな道路のある歩道を歩いている。
道路上には瓦礫があり、ヒビも入っており、空想侵略の傷跡が今もなお残っている。
だが、小さな瓦礫はどこにもなく、大きな瓦礫も道路の脇に退けられ、一部補修された跡もあり、車一台なら問題なく通れるくらいの幅は確保されている。
周りの建物もヒビが入っていたり欠けていたりするが、崩れないように補修された跡がある。
ビルの間にまばらに空き地があり、そこには畑があり、今も数人の人が作業に勤しんでいた。
そこにもかつてはビルが建っていたが、空想侵略により倒壊、または修復不可能となった建物を取り壊し瓦礫と撤去した後、土を耕して畑としている。
ここは外界
空想侵略後の変遷で都市から選ばれなかった人たちが暮らしている場所である。
そして烈火がここにきている理由は、その外界の中でも北側にあり、北方基地のそばにある外界を縄張りとしているグループ『烏の饗祭』のリーダーに会いにきたからだ。
「寓話獣の攻撃を受けていると思ったが、あまり普段と変わらないな」
「俺たちにとっちゃまだ数が多いだけの雑魚だからな。俺としてはこの程度で援護を要請する内界の人間の脆弱さに驚いているだが。あそこの基地、俺たちの何倍もの戦闘員がいるんだろ?」
そう烈火に答えたのは男の名は
烏の饗祭のサブリーダーであり、今は烈火をリーダーのところへ案内するため一緒に行動している。
そうしないと内界民である烈火はすぐに周りにいる人たちに襲われるからだ。
外界でも何人かとは繋がりを持ち度々外界、そしてその外側に足を運んでいる烈火でも外界の民にとっては内界の住民というだけであまり良い印象を持たれていない。
内界と外界との繋がりがほぼなくなった現在でも、たびたび政府が介入しようとしており、その度に諍いがあるからだ。
今だって烈火を見る目は厳しい、硯がいなかったらまともに歩くことも出来なかっただろう。
「攻勢に出ないのか?」
「まだだな、今は若者たちの実戦訓練として使っているから適当に間引いてるだけだ」
「内界の部隊が援護要請までしている寓話獣を訓練扱いか。あいつらが聞いたらなんて言うか」
烈火は苦笑していた。
まあ、烈火自身も訓練として夢幻の杜の仲間たちを援軍として送ったので言える立場ではないのだが。
「あいつら俺らのところにも来たぞ。すごく上から目線で。まぁ門前払いにしたが」
「そいつはすまねぇな」
「お前が謝ることじゃねぇだろ。ほら着いたぞ」
そう言った硯の目の前には一際デカい建物があった。
ここが烏の饗祭の本部である。
周りの建物と比較しても綺麗であり、ヒビの一つも見当たらない。内界の建物といっても問題ないくらい綺麗だった。
「ほんと、たった一年よくここまでできたな」
「俺たちが一から作ったわけじゃないぞ」
「それでも重機を使わずに作ったんだろ?」
「何人かの土と鉄の
二人が本部の入り口へと近づいていく。
「いいからさっさとここに入れろ!」
「入れるわけないだろ」
「下界の人間が佐倉さんの邪魔をするな!」
すると三人の男が入り口にいる門番二人と何やら言い争いをしているのが聞こえてきた。
「どうした。なにをしている」
「佐倉さん。どうしてここに?」
硯と烈火の声に言い争いをしていた五人が彼の方に顔を向ける。
「硯さん!」
「北条烈火!なぜここに!」
門番の二人は硯を見て少し安堵しており、対して三人組の方の烈火から佐倉と呼ばれた男は烈火を苦虫を噛んだような顔をしていた。
「誰だお前は!」
「俺は藤堂硯だ。で、お前らは?」
三人組のうちの一人の問いに答える硯。
そしてその問いに佐倉が反応した。
「…藤堂硯……お前が烏の饗祭とかいう不良の集まりの副リーダーか。おい!今すぐここのリーダーに会わせろ!そして北方基地に増援を寄越せ!掃き溜めの下界民が活躍できる場を与えてやったんだ!光栄におも……」
「断る。というかそんなんでいくと思ってるのか?」
自分の言葉に被せるようにして断られたことに初めて彼は呆然としていたが次第に怒りを露わにしたあとニヤリと笑った。
「そんなことを言って良いのか?この二人はなあ!第一異能機関でも優秀な成績を残した異能大隊でもエースの二人だ!下界民なんて二人にかかれば簡単に全滅できるのだぞ!?」
適当に暴れるように命令するために付き添いできていた二人へと顔を向ける佐倉。
だが、そこには体が黒い粘性のある液体に巻きつかれ動けなくなっている二人の男がいた。
「おい!お前ら何をしている!さっさとそれを外せ!」
突然の事態に驚いていると佐倉もまた二人同様に黒い粘性のある液体に拘束される。
彼らもなんとかこの拘束から逃れようと必死にもがいているが抜け出せる気配がなかった。
「おまえら。去年の内界と外界の争いのこと覚えていないのか?」
そう言った硯の表情には少し呆れが見てとれる。
彼らを拘束している黒い液体の拘束が少しずつ強くなっていく。
「ほ、北条烈火!俺たちを助けろ!」
危機感を覚えた佐倉は青い顔をしながら烈火へと助けを求めた。
それを聞いた烈火はため息を吐きながらも硯に声をかける。
「硯。それくらいにしておけ」
烈火は硯の肩に手を置きながらそう言った。
「はぁー。すまんが一人こいつらを内界に捨てる人員を呼んできてくれ」
「分かりました」
硯に声をかけられた門番のうち一人が本部へと入っていき、数分後には三人は拘束されたままやってきた者たちに担がれて内界へと向かっていった。
それを見届けてから二人は烏の饗祭の本部へと入っていく。
「あいつら烈火のこと知っていたようだが、何者だ?」
本部の中を歩いている時に硯が聞いてくる。
「佐倉さんは政府の防衛長官で………過激派の一人だ」
「過激派……外界排除派か。政治家の中でも多いのか?」
「………すまないが政治に関する話はあまり言えない」
「そうか」
そのまま二人の会話は終わった。
本部に入って数分、建物のかなり奥に進んだところに浩志の部屋があった。
グループのリーダーだけあって一番安全な場所に部屋を構えているのだ。
硯が扉をノックして烈火が来たことを伝えると中からは「入れ」と入室を促す声が聞こえてくる。
それを聞いてから硯と烈火が部屋に入った。
部屋の中は簡素なものだった。
部屋の真ん中には来客用なのか机とソファが置いてあり、奥に執務用の机、その上にはさっきまで書類でも読んでいたのか何枚か紙が置いてあった。
そして、執務用の机に一人の男性が座っていた。
短い黒髪に黒目で見た目は20代後半であり、筋肉が付きすぎない程度に鍛えられている。
彼の名前は
彼こそがここら一帯を治めるグループであり、空想侵略直後から続く『烏の饗祭』のリーダーである。
「前に会った時からずいぶんと早かったな。お前が俺のところに来た理由は分かっている。あのクマ公のことだろ?」
「話が早くて助かる」
「あいつらの手助けなんてしないぞ」
浩志はすぐに断った。
彼は烈火がここにきた理由が最近よくここにくる内界の人たち同様増援要請だろうことは分かっていた。
その後、話は終わりとばかりに手元にある書類を読み始める浩志。
「今回の寓話獣の特徴は分かってるんだろ。いつかそっちでも手に負えなくなるぞ。それに基地の方は正直もう限界に近い。あそこが落ちたら、なし崩し的に内界も蹂躙されてしまう。そうなると外界は内と外から攻められることになる。それは浩志も困るだろ?」
「そっちの基地の方の情報は得ている。本当に限界そうなら多少助けるさ。俺も落とされたら面倒なのは理解している。でもな、正直今そっちに構っている余裕がないんだ」
そう言って浩志は烈火にさっきまで自分が読んでいた書類を見せた。
「何か他に問題でもあるのか?」
「どうやら『
「っ!なに!それは本当か!」
「正確には乗っ取られただな。信頼できる奴からの情報だ。ほぼ間違いねぇだろう」
浩志の言葉にあわてて書類を読むと確かに
イデアの隣人とは烏の饗祭と同じ外界での影響力の大きい三つのグループの内の一つであり、外界の南方をテリトリーとしているグループである。
奴らは
彼らはこのような信条からかなりの強者が多く、イデアの隣人のリーダー
そんな人たちがいるイデアの隣人の上層部が皆殺しにされ殺され乗っ取られたというのは、外界民にとってはかなり大きな出来事であった。
「今はその
ちなみに『
それを聞き、彼らに手伝いを申し込むわけにはいかないと思った烈火は一人で目的を果たすことにした。
「そうか。…せめて寓話獣のリーダーの居場所だけでも教えてくれないか?俺だけでも行ってくる」
烈火は浩志から渡された書類は返しながらそう言う。
その言葉に浩志は疑問を感じた。
「ん?基地の防衛はどうするんだ?お前のことだからそっちに行くと思ったんだが」
「そっちは俺たちの部隊に任せてある」
「…そういえば前に来た時に言ってたな。もう戦力になるレベルまで育ったのか?」
「『夢幻の杜』って言うんだ。個々の力はもうだいぶ育ってるよ」
そう言いながら烈火は少し自慢げになっていた。
「…基地防衛を手伝ってくれっていうと思ったから断ったが、リーダー叩くだけなら少しだけだが手を貸そう。うちからも数人連れて行ってもらって構わない」
浩志は一緒に部屋にいた硯を見て
「硯、鈴と岩人を連れて烈火の協力をしてくれ」
そう言った。
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