第13話 森宮ヒカリの心のうち


 ヒーローに憧れていた


 みんなの危機を颯爽と解決する姿に心打たれた


 私もヒーローになりたいと思った


 昔はそんなの夢物語だと思われていたらしい


 でも今は、超能力というヒーローになれる力がある!


 夢が現実になったのだ!


 そして私はフォトンキネシスの超能力を得た


 まさしくヒーローのような力!


 私はいつかヒーローになる!!




 そんな夢物語を妄想していたのはいつまでだったか


 私はもう、夢を見ない


 だって私はヒーローじゃないのだから


 私はただの一般人だ



 これは3年前、私、森宮ヒカリがまだ第一異能機関の一年生として歩み始めたばかりの頃の話


 言葉だけのヒーロー気取りのお話




「ここがこれから私が通う学校かー」


 そう言いながら当時15歳のヒカリは学舎を眺めながらそう言った。


 超能力者となったものだけが通う学校。


 私の憧れの学校。


 胸をドキドキさせながらその門をくぐった。


「よし、それじゃあ超能力の訓練を始めるぞー。今回は初めての超能力訓練の授業だし、緊張せずに頑張れよー」


 その日、初めて超能力の実習の授業が行われた。


 所定の場所以外での超能力の使用は法律で禁止されていたため、私たちはここで初めて超能力を使うのだ。


 周りを見てみるとみんな楽しそうに超能力を使っていた。


 私もはやる気持ちを抑えきれず、超能力を使う。


 初めての超能力に私は興奮した。


 それから何度もフォトンキネシス能力を使った。


「ヒカリ君。調子はどうですか」


「あ!先生、見てください!私は超能力はちゃんと使えていますか!?」


 様子を見にきた先生に私は無邪気に、楽しそうに答えた。


 先生は私の超能力を見て


「…ああ。ハズレか」


 そう言うと、興味がなくなったようにさっさと他の場所へ行ってしまった。


「……え?」


 あまりの事で呆然とした。


 後から知った事だけど超能力の力は基本一定なんだけど、数人ほどそれが当てはまらない人がいる。


 能力が優れているのならアタリであり、教師や他の生徒から期待される。


 対して、劣っているのならハズレの烙印が押され、教師からは見捨てられ、生徒からも見下したような目で見てくる。


 普通の人なら岩くらい難なく貫けるのに、私のフォトンキネシスは他の人と違ってほとんど物に影響を及さなかったんだよ。


 私は絶望した


 期待していた超能力に目覚めた。


 なのに、その力は並以下。


 上げて落とされたようなもの。


 当時はまぁ凹んだ。


 でも、超能力で劣っていても、周りの模範となるように真面目に生活をしようと行動した。



 それも意味がなかった


 私はハズレの烙印を押された人の周りからの評価をみくびっていた。


 私は真面目に授業を受けた。


 勉強して、テストではずっと一位を取っていた。


 積極的に発言をして、規律を守っていない子に注意を行ったりもした。


 誰も聞いてくれなかった


 誰も認めてくれなかった


 誰もが私を下に見た



 それでも私は頑張った。


 授業以外の時も一人で何時間も自主練して何度も何度も使ったのに、私は他のフォトンキネシスの超能力者より劣ったままだった。


 私はどれだけ周りから蔑まれようが、無視されようが、かつて憧れたヒーローを心の在処にして、私は努力した。




 でも、2年生になった時、その思いは粉々になった。


 西園寺瑠璃


 彼女は全てを持っていた。


 ルックスも学力もカリスマ性も、そして圧倒的な超能力の才能も。


 私が目指したいたものを全て持っていた。


 まるで私のこれまでしてきた努力を嘲笑っているようだった。


 私の全てが否定されたのだと思った。


 それでも私は頑張った。


 誰も彼もが私の努力を無駄と嘲笑った。


 私は否定したくてもできなかった。


 事実、私がどれだけ努力しても彼らの足元にも届かなかったのだから。


 もうぐちゃぐちゃになった心では、私が今何を目指しているのか分からなくなっていた。


 ヒーローという憧れが隠していたのもが全て曝け出された。


 周りからの悪口や視線、私に対して行われる行動が全て私を否定しているみたいで耐えられなくなった。


 それでも私は以前と同じように振る舞った。


 歩み続けた。


 この歩みを止めたらもう何もかも消えてしまうのではと思ったから。



 でももう限界だった。


 そんな時だった


「こんな時間まで訓練とは感心するね」


 烈火さんが声をかけてくれたのは


私はその時訓練場で一人自主練をしていて、そこに烈火さんが来たのだ。


「…誰ですかあなたは」


「俺かい?俺は北条烈火。よろしく」


 そう言いながら烈火さんは手を差し伸べてくれた。


 初めはそれを無視しようと思った。


 彼も自分を嘲りに来たのだと思っていた。


 でも、不意に見えた彼の目が真っ直ぐに自分を見ていた。


 そんな目で見られるのは久しぶりだった。


 だからなのか無視することができなかった。


「…邪魔しないでください」


「もう休んだ方がいい。ふらふらじゃないか」


「邪魔しないでくださいと言いました」


 この時は自分でもびっくりするくらい低い声が出ていた。


「私には才能がないんです。だから他の人よりも何倍も練習しないといけない。なのに一歩も進歩しないんです。私は頑張れていないんです。休む暇なんてないんです。だから…」


「君は頑張っている。誰がなんと言おうと君は頑張っている。俺が保証するよ。だからさ、もう休みな。限界なんだろ?」


 私の言葉を否定するように言われた言葉


 誰も私に言ってくれなかった言葉、誰も見てくれなかったその真っ直ぐな目が、私の心を開かせた。


 常に張っていた気も薄れ、本当に限界だったのか私はその場で気絶するように眠った。


「お疲れ様」


 意識が薄れる直前、そんな言葉が聞こえたような気がした。



「………ん」


 目が覚めると私は学校にある保健室のベットに寝ていた。


「目覚めたかい?」


 私が寝ているベットのそばに烈火さんがいた。


「…あなたは。えーっと」


「覚えてない?じゃあ改めて、俺の名前は北条烈火だ。よろしく」


 そう言いながら手を差し伸ばした


 あの時と同じ状況


 以前は無視したその手を


「…よろしくお願いします」


 私は取った。


「俺がここにいるのは君に用事があってね」


「私に…ですか?」


「そうだよ、まぁ簡単に言うとスカウトだ」


「……え?…私が?」


 この時の私は、突然の事で頭が真っ白になっていた。


まさか自分がスカウトされるなんて思っても見なかったから。


「そうだよ。まぁまだ設立を申請している所だから今すぐってわけにも行かないけどね」


「…なんで、私なんですか?私は超能力もまともに使えないハズレですけど」


「…ちっ。何も知らないくせに他人の能力に当たり外れなんて区別して、何様だよあいつら」


 あの時の烈火さん、私も怖いと思うほど怒っていた。


「あの…」


「っ!ああ悪い。ただの愚痴だよ。君はハズレなんかじゃない。俺は君だからこそスカウトしたんだ」


 烈火さんは私が怯えていることに気がついたのかすぐに元に戻った。


 正直彼のことなんて殆ど知らない。


 でも、私を見向きもしない他の人たちよりも、ずっと信用できた。


「今はまだ返事はいらないよ。正式に部隊の設立が認められたら改めて聞きにくる。その時答えを聞かせてくれ」


 そう言った後、私の住所を聞いてから部屋をさっていった。


 去り際


「君はもっと広く周りを見たほうがいい。あんな小さな集まりで認められなくても、君を認めてくれる人はいくらでもいるさ。俺のようにね」


 そう言った。



〜〜〜〜〜



「あのあと、なんかバカらしくなってね、これまで真面目に授業を受けていたのが嘘のように一切学校に行かなくなった。そこから半年かけて少しずつ壊れた心を直していって、夢幻の杜ここに入るほんの一ヶ月前にやっと家を出られたんだ」


 ヒカリは自嘲するように笑いながら言った。


「でもまだ後遺症みたいなのがが残っていてね。私、人の目がある所が少しトラウマになっているんだ。特に同世代の人が見ているって意識すると体が硬直しちゃう」


 そう言いながら彼女は僅かに震えている自分の手を見ていた。


「僕たちは大丈夫だったの?」


 刻たちもヒカリにとっては同世代の人たちである。


 ならトラウマが呼び起こされたのではと思ったが、ヒカリそんなそぶりを見せなかった。


 だから少し気になったのだ。


「不思議と大丈夫だった。多分私と同じくこの部隊に入った仲間として認識していたからなのか、同じ境遇だったから、なのかな」


「そうか」


 刻はヒカリにどのように声をかければいいのか分からなかった。


 何か彼女のためになるようなことを言ったほうがいいのではと。


「聞いてくれただけでありがたいよ。それだけでも私の心は少し軽くなったから。これは私の問題。もう少し時間が経てば完治するから問題ないよ」


刻が言い淀んでいることに気づいたヒカリは心配させないようにそう言った。


「さぁ、もう寝よう。明日は朝早いからね」


 その後ヒカリは席から立ち上がり部屋を出て行こうとする。


「僕も、巧や紡志、凛も君の事を認めているからね。僕たちのまとめ役は君だよ。それだけは忘れないでくれ」


 その直前に刻は彼女に声をかける。


 ヒカリはその言葉を聞き立ち止まり


「ありがとう」


 そう言って部屋を出た。



〜〜〜〜〜



 翌日、朝早く


 集合場所である西方基地前


そこには烈火を除いた夢幻の杜のメンバーが揃っていた。


「それじゃあ行くか」


 秀の号令の元、夢幻の杜は初めての仕事に向けて出発した。

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