第12話 夢幻の杜 会議中
急に決まった夢幻の杜としての初仕事。
それによって今日予定していた勉強が取りやめになり、明日に向けての会議となった。
刻も急いでご飯を食べ、いつも勉強を行なっている夢幻の杜本部の部屋へと向かう。
刻が着いている頃には烈火、秀以外のみんながもう揃っていた。
刻が座って少し経った時、烈火も部屋に入ってくる。
その後ろには何か資料を携えた秀もいた。
「全員揃ってるな!それじゃあ早速作戦会議を始める」
そう言って烈火は脇に避け、秀が説明のために前に出てきて手に持っていた資料をみんなに配った。
今回の仕事に関する資料なのだろう。
「よし、全員資料は手に持ったな。それじゃあまず初めに俺たちに要請がきた経緯を教える。丁度一週間前の未明、異能大隊北方基地に小さなクマの人形の形をした
そう言ったあと、秀は資料に目を向け指し示した。
「次に、その寓話獣について今わかっていることを教える。資料を見てくれ」
その言葉にみんな資料を見る。
「まず寓話獣の姿形だ。遠目で確認しただけらしいが、どの寓話獣も小さなクマの人形のような形をしているが、土塊だったり、木の棒をまとめて作られたものだったり材料は様々。なぜか決まった時間に襲撃し決まった時間に撤退する。そして撤退時、倒された寓話獣や人間を回収していく。初めの方はそれを阻止しようと動いていたが、猛烈に反撃してきて大きな被害が出たため、今は見逃しているんだそうだ。そして、これが一番重要なんだか、一匹一匹の寓話獣の強さが強くなっているらしい。もう超能力者の攻撃もあまり効いてないそうだ。説明はこれで以上だ。何か質問はあるか?」
その言葉に巧が手を挙げた。
「なんだ?巧」
「だんだんと数が増えてきているんですよね?今ってどれくらいの数なんですか?」
「…暗くて正確な数は分からんが万に迫るそうだ」
「……それ、俺たち五人が増えたところで焼け石に水なんじゃないですか?」
巧と同じ事を全員が思っただろう。
しかし、秀も何も考えていないわけじゃない。
「今回、君たちには攻勢に出ると言うより防衛と索敵の援護を主に行ってもらう」
「それじゃあいつまで経っても終わらないんじゃ…」
そう答えたのは紡志だ。
そう、このままでは根本的な解決にならない。
また、寓話獣の数と強さが増していって、すぐに夢幻の杜の増援も意味をなさなくなってしまう。
その質問に答えたのは烈火だ。
「それは俺の方でやる」
「烈火さんが一人でですか?」
「いや、外界の
「私たちも…」
「だめだ」
ヒカリが烈火についていくと言おうとしたが秀に遮られた。
「なんでですか?」
「君たちはまだ連携の訓練を始めたばっかりだし、初めての戦闘だろう?だから今回は実戦に慣れること、戦いを雰囲気を掴む事を目的としている。そう焦らなくても大丈夫だ」
そう、まだ彼らの訓練は終わっていないのだ。
それに、今回襲撃してきた寓話獣を指揮しているもの、本体は都市から離れている可能性が高い。
まだ外に出たことがない彼らは足手纏いになると秀と烈火は判断し、今回防衛と索敵を任せることにしたのだ。
「…分かりました」
ヒカリはそう言いはしたが、その表情は納得していなさそうであった。
「それじゃあ詳しい向こうについてからの流れを言う。寓話獣の襲撃は午前0時から3時までの3時間。それまでに向こうで遅延対策の準備を行う。まず、北方基地に着いたら刻と紡志が拠点基地の修復と補強を頼む。他の三人は先に地形などを把握をしといてくれ」
それにみんなは了承の返事をする。
紡志は緊張のためかちょっと声が裏返っていた。
その後秀はみんなに作戦の説明を行なっていった。
みんな特に不満はないのか順調に話は進んでいく。
だが、話が進んでいくごとにヒカリの顔色が悪くなっていった。
「ヒカリ」
「…っ!は、はい!」
「何か考え事か?作戦に問題があったのなら聞くぞ?」
「い、いえ、大丈夫です!問題無いです!」
ヒカリは手を振りながら慌てて否定した。
「そうか、何か問題があるのなら遠慮なく言ってくれ。続けるぞ」
その時のヒカリの表情から、なにか隠し事をしていることが刻には分かったが、秀がそれに気づくことはなかった。
「これで作戦は以上だ。何か異論は?」
「…いい?」
秀が異論があるかと聞き、凛がそれに対して手を挙げた。
「なぜその配役になったのかの説明」
彼女は相変わらずの無表情だった。
凛はいつでも無表情だ。
数ヶ月一緒にいるが刻たちは彼女の表情が動いたのを見たことがない。
「刻は刀を使った近接戦闘が得意だし、
「……気になったことがあるんだが」
そう手を挙げたのは巧だ。
「むこうとの連携はどうするんだ?」
秀が言った作戦と配置は夢幻の杜のメンバーだけの話である。
無論彼らは援軍であり、北方基地には多くの戦闘員がいるはずである。
なのに秀の作戦はそれらを一切考慮していなかった。
「あぁ、夢幻の杜は異能大隊の中でも特殊な立ち位置でな。独自行動の許可されていて、他の部隊から指揮されることもないんだ。それに今回、他の人たちは邪魔になると思ったから防衛に専念するようにお願いしている」
刻たちは自分のいる部隊がそこまで特殊なところだと思ってなかった。
「それじゃあもう寝る準備をして明日に備えてくれ。解散!」
「お前らあんまり緊張して寝過ごさねぇようになぁー」
そう言って秀と烈火は部屋から出ていった。
それに続くように刻たちも自分たちの部屋に戻ったでいった。
その時、ヒカリの顔色はまだ暗いままだった。
〜〜〜〜〜
(……眠れない)
時間は夜中。
会議が終わり、自分の部屋に戻ったあとすぐに寝ようとしたのだが緊張のせいなのかなかなか寝付けなかった。
このままでは朝まで眠れないと思った刻は、気分を帰るため、部屋を出て少しぶらぶらすることにした。
(ん?本部の部屋が開いている?)
本部の部屋の目の前を通ろうとした時、扉が少し開いていることに気づいた。
中を覗くとヒカリが一人机に座って俯いていた。
その顔は先ほど解散した時よりもさらに暗かった。
刻は声をかけるべきかそっとしておくべきか悩んだ刻であったが、このままだと明日に支障が出ると思い、声をかけることにした。
ギィ
「っ!誰!?……刻か」
扉の開く音にヒカリが驚き声をあげるが、刻の仕業だと分かると安堵したようにため息を吐いた。
「どうしたの?会議の時からずっと顔が暗かったけど」
「っ!気づいていたの?そんなに分かりやすかったかな?」
そう言いながらヒカリは苦笑した。
その顔はさっきよりも少し明るかった。
その後ヒカリは少し考えるそぶりをしたあと刻に声をかけた。
「……ねぇ刻。あなたって元外界の人なのよね?」
「まぁ、記憶にないんだけどね」
すでにメンバーのみんなには刻が元外界民であること、記憶喪失であることは彼の口から伝えてある。
「あ、その、ごめんなさい」
「大丈夫だよ」
ヒカリは刻のデリケートなところを突いてしまったと思い謝るが、刻は気にしていなかった。
「ねぇ、ちょっと聞いて欲しいことがあるの」
「聞いて欲しいこと?僕に」
「えぇ、私の過去についてよ」
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