第14話

◯某日夕方

某小学校前


男の子A

「なぁなぁ」

「ついに手に入れたんだ」

「悪魔の帽子!」


男の子B

「すげぇ!」

「本当に手に入れたのかよ!」


帽子

「きしゃー!」


男の子A

「へへへ」

「俺のおじさんが『帽子の会』の会員なんだ」

「俺も帽子が欲しいってお願いしたら」

「一個くれたんだ」


男の子C

「すげぇー!」

「都市伝説だと思ってたけど」

「本当にあったんだ⁉︎」

「こいつなんて名前なの?」


男の子A

「ジェームズっていうんだ」

「炎の魔法が使える悪魔なんだって」


ジェームズ

「よぉ坊主ども」

「よろしくな」


男の子B

「しゃべった!」

「めっちゃリアル‼︎」


ジェームズ

「当たり前だい」

「おれっち立派な悪魔だからな」

「そのへんのおもちゃと一緒にするんじゃねぇやい」


男の子C

「すげぇすげぇ!」

「本当に魔法が使えるの?」


男の子A

「使えるよ!」

「いいかい見てなぁ!」


警報


男の子たち

「⁉︎」


男の子A

「びっくりしたぁ」


男の子B

「なんだよ」

「驚かすなよ」

「パトカーが走ったの?」


辰美

「──ねぇ君たち」


男の子C

「⁉︎」

「誰?」


男の子A

「わぁ」

「綺麗なお姉さんだ」


男の子B

「おお……ごくり」


辰美

「こんな遅い時間にどうして家に帰ってないの?」

「もう学校は終わったはずでしょ?」


男の子A

「お姉ちゃん高校生?」

「この辺じゃ見たことない赤いセーラー服だね」


辰美

「…ええ」

「知り合いを追いかけに田舎からやってきたの」

「──ところで」

「聞きたいことがあるんだけど」

「いいかな?」


男の子C

「ダメだよ!」

「知らない人に話しかけられても答えちゃダメだって」

「ママが言ってた」


男の子B

「え」

「でも」

「いい人そうだよ?」


男の子A

「そうだよ」

「すごい綺麗だし」


男の子C

「綺麗ってどうして思うんだ」

「マスクしてるから顔の半分わからないじゃないか!」


辰美

「……ふふふ」

「ありがとう」


ジェームズ

「ぐぐぐぐ!」


男の子A

「どうしたの?ジェームズ」


ジェームズ

「……逃げろ」

「こいつは」

「『人間』じゃない…」


男の子A

「は?」

「何を言って──」


刺殺音


男の子B

「⁉︎」

「え?」


男の子C

「ハサミ?」


男の子A

「あが…」


倒れる音


辰美

「最近の小学生はませてると聞いたけど」

「美的感覚がズレてるタイプもいるようね」


男の子C

「ひぃ⁉︎」


辰美

「──さてと」

「私があんたたちに向けて質問したいことは2つ」

「ひとつ」

「他に帽子の悪魔を持っているお友達はいるかしら?」


男の子C

「わ」

「わかんない」

「知らない僕は」


辰美

「あそ」

「君は」


男の子B

「あ……あわわわわ」


辰美

「あらら」

「おしっこ漏らしたのね」

「情けないわね」

「男の子でしょ?」


男の子C

「ひ!」

「人殺し⁉︎」


辰美

「失礼ね」

「人殺しじゃないわ」

「──これは『浄化』よ」

「世界中が悪魔に乗っ取られないように」

「悪魔を一匹殺す」

「浄化作業をしただけよ」

「それにあんたたち異教徒は悪魔の手先だから」

「殺して罪にはならないのよ」

「学校で習わなかった?」


男の子C

「ひぃ‼︎」


辰美

「あっとそうだった」

「二つ目の質問をしてなかったわね」

「そこの君」

「なかなか鋭い指摘をしたわね」

「マスクをしていたら顔の半分がわからない」

「確かにそうね」

「美しさを確認するためには」

「顔を見せないといけない」

「世界の常識ね」


男の子B

「助けて!」

「誰か!」

「がっ⁉︎」


刺突音


辰美

「話は最後まで聞くものよ」

「ぼうやたち」

「──で」

「あらためて二つ目の質問をするわね」

「昔からのテンプレ質問なんだけど」

「やっぱ確認しておかないといけないのよね」

「『口裂け女』としてさ」


男の子C

「ひぃいいいいい⁉︎」


マスクを外す音


辰美

「あたしって」

「きれい?」


月夜の部屋


月夜

「……」

「…………」

「……………」

「……………あのさ」


神太郎

「……なんだ」


月夜

「一つ質問していい?」


神太郎

「ダメだ」

「後にしろ」

「俺は今忙しい」


月夜

「……」


神太郎

「もう少しで倒せるんだ」

「ボス戦に辿り着くまて4回死んだ」

「残機ゼロでここまで頑張ったんだから今はほっといてくれ」


月夜

「………」


切り裂き音


神太郎

「‼︎」

「びっくりした‼︎」

「ポールペンを飛ばすな」

「やめろ」

「ビビるだろ」


月夜

「いい加減帰ってよ」

「ここあたしの家なんだけど」


神太郎

「辰彦には許可はとっている」

「無人になると怪しまれるからな」

「お前の家を幽霊屋敷にするわけにはいかないだろ」


月夜

「幽霊屋敷じゃないもん」

「あたしの家だもん」


神太郎

「ガタガタうるせぇぞ浮遊霊」

「カビとゴキブリが湧かないように掃除してやってるんだ」

「ありがたいと思え」


月夜

「絶対下着にだけは手を出さないでよね」

「触ったら呪い殺すからな」


神太郎

「‼︎」

「あー!」


月夜

「なに⁉︎」

「どうしたの⁉︎」


神太郎

「くそが‼︎」

「死んだ!」

「ふざけやがって!!」

「くそ!!」

「あーもう!!」

「ざけやがって」


カーペットに倒れる音


月夜

「……気が済んだら早く出てってよ」


神太郎

「うるせぇ」

「下着触るなってほざく暇があるなら」

「股を押さえとけ」

「幽霊で空中に浮遊してるんだ」

「パンツ丸見えだぞ」


月夜

「‼︎」

「この‼︎」

「変態‼︎」


神太郎

「貞操観念が低いテメェが悪いんだ」

「制服のまま幽霊になりやがって」

「ちゃんと着替えておけ」


月夜

「仕方がないでしょ‼︎」

「こうなるってわかってなかったんだし‼︎」


神太郎

「……ち」

「………うるせぇよ」

「わかってるよ」

「んなこと……」


月夜

「……ねぇ」

「これからどうなるの」

「あたし」


神太郎

「……」


月夜

「このまま幽霊のまま」

「この世を彷徨うの?」


神太郎

「…………」


月夜

「それとも」

「いつかお迎えがきて」

「死んじゃうの?」


神太郎

「──死なせねぇよ」

「お前は絶対にあの世に行かせねぇ」

「まだその時じゃねぇからな」


月夜

「どうして言い切れるの?」

「そんな保証ないじゃん」

「死なない保証なんて」


神太郎

「──信じろ」

「神様は絶対に」

「頑張ってる奴を見放さない」

「必ず何か『道』を示してくれる」

「道は必ずある」

「だから」

「信じろ」


月夜

「──そんなの」

「あたしには……」


ドアが開く音


孝一

「よぉ」

「帰ったぞ」


月夜

「⁉︎」

「え⁉︎」

「何その傍に抱えてるの」


孝一

「ん?」

「ケンタッキーフライドチキンだが?」

「バレルが安かったから一気にバケツ6つ買っちまったぜ」


神太郎

「ご苦労さん」

「飯にしようぜ」


月夜

「ちょっと‼︎」

「あたしの部屋で食べないで‼︎」

「せめてダイニングで食べて‼︎」


孝一

「月夜ちゃん」

「ケンタッキーは出来立てを食べないと」

「腐って不味くなるんだぜ」

「常識だぜ」

「デブ界ではな」


月夜

「だったら店で食べてよ‼︎」

「やめて‼︎」

「そんな油ベタベタの手であたしの部屋のも触らないで‼︎」


神太郎

「固いこと言うなよ」

「あとでちゃんと掃除してやるからよ」

「もちろん洗濯もな」


孝一

「それ俺も手伝うぜ神太郎」


月夜

「〜〜〜〜ッッッ」


切り裂き音

複数


孝一

「ぎゃああああ!刺さった⁉︎」


神太郎

「今度は鉛筆か」

「股間を狙うあたり」

「本気だな」


孝一

「感心してる場合かよ⁉︎」

「チ◯チン狙ったんだぞ‼︎」


月夜

「ころす」

「早く」

「いますが出て行かないなら」

「お前ら全員」

「コロス!!!」


壁に鉛筆が刺さる音

ドアが閉まる音


神太郎

「……調子に乗りすぎたな」


孝一

「いてぇー」

「マジで容赦なさすぎだろ月夜ちゃん」

「冗談が通じないんだから困ったぜ」


神太郎

「お前の場合」

「半分マジだろ」


孝一

「おいおい」

「見損なうなよ」

「ちゃんとわきまえてるぜ」

「冗談とマジな時はよ」


神太郎

「……で?」

「収穫はあったのか?」


孝一

「ダメだな」

「色々ツテを使ってみたが」

「ユナがどこにいるか」

「さっぱりだ」


神太郎

「……そうか」


孝一

「タイラも中条も」

「裏切られたクチだから」

「当然ユナの行き先も知らないそうだ」


神太郎

「……」


孝一

「お前のじいさん」

「円斎さんも動いていると聞いたが」

「そっちはどうだ?」


神太郎

「知らねぇ」

「じいさんとはあれ以来会ってないし」

「連絡もねぇ」


孝一

「……」


神太郎

「俺に失望したんだろうよ」

「大見得切って東京に出たけどよ」

「問題を大きくしただけだからな」


孝一

「なぁ神太郎」

「これは思っている以上に」

「やばい状況になってると思わないか?」


神太郎

「……」


孝一

「帽子の会を裏切ったユナは」

「別の組織と手を組んで」

「月夜ちゃんの肉体を盗んだ」

「理由はわからないが」

「悪魔の匂いを持つ月夜ちゃんの肉体を盗むってことは」

「何かよからぬことを考えている連中だってことだろ」

「これはひょっとするとひょっとして」

「俺たちはとんでもないことに巻き込まれてるんじゃないかって思うんだが……」


神太郎

「何が言いたいんだテメェ」


孝一

「俺が言いたいのは」

「『終末世界』が来るんじゃないかってことを言いたいんだ」

「この世の終わりが来て」

「最後の審判が下るんだ」

「俺たち人間に」

「月夜ちゃんの肉体は」

「その最後の審判に使われる鍵なんだ」


神太郎

「キリシタンでもねぇ無神論者のテメェが」

「聖書の黙示録を信じてるなんて」

「何の冗談だ」


孝一

「俺はマジで言ってるんだぜ!」

「……神太郎」

「その…言いにくいんだけど」

「今回は抜けさせてもらいたい」

「これ以上は危ない橋は渡れないっつーかよ……」


神太郎

「──わかってる」

「お前はよくやった」

「色々助けてくれて感謝している」


孝一

「……まだケリつけようってのか」

「お前」


神太郎

「ああ」

「あのユナには『借り』がある」

「『借り』を返すまで」

「諦めるつもりはねぇからな」


孝一

「……」


神太郎

「だがな孝一」

「俺にはまずやらないといけねぇことがある」

「仮を返す前に」

「絶対にやらないといけないことだ」


孝一

「なんだよ」

「やることって」


神太郎

「学校だ」

「もう二時間目が始まってる時間だ」

「今は」


◯皐月高校


月夜

「──こんな感じで学校に行くなんて」

「想像もしてなかったな」


神太郎

「家で留守番してろよ浮遊霊」

「死んではいないが状況として肉体は『行方不明』なんだ」

「学校に来る必要なんてないんだぜ」


月夜

「家にいたって退屈だし」

「やることないもん」

「──それにやりたいこともあったし」


神太郎

「やりたいこと?」


体育教師

「早く校舎に入れ‼︎」

「遅刻するぞ‼︎」


月夜

「……」

「べぇー!」

「ばー‼︎」


神太郎

「……何やってんだお前」


月夜

「──すごい!」

「本当に見えないんだ‼︎」


神太郎

「当たり前だろ」

「幽霊なんだぞ」

「くだらねぇことしてねぇでさっさと教室に来い」


月夜

「……ねぇ神太郎くん」


神太郎

「なんだ」


月夜

「よくホラー映画とかで幽霊が生きてる人の体に乗り移って操るみたいなのあるじゃない」

「ああいうのってできるの?」


エドワード

「やめとけ」

「生きてる人間の体に入り込もうとしたら」

「幽体が砕けちまうぞ」


月夜

「‼︎」

「ケイコ先輩⁉︎」


ケイコ

「……家にいなくて大丈夫なの?」


神太郎

「こいつが暇だから」

「付いてくるってよ」


エドワード

「けっ」

「物好きなガキなことだ」


ケイコ

「……先に言っておくけど」

「私は何も知らないわ」

「ユナがどこにいるのか」

「何を企んでいるのか」

「私たちも騙された側なの」


神太郎

「──知ってるよ」

「テメェを追い込むつもりはねぇよ」

「ケリはついたんだ」

「もうお前らに興味はねぇよ」


ケイコ

「──決着はまだよ」

「まだあんたとの勝負は終わってないわ」


神太郎

「──」


月夜

「あ」

「あの?」


神太郎

「お預けだ」

「こんなところでバチバチやってもしょうがねぇ」

「そう思うだろ?」

「月夜」


月夜

「え?」

「いや」

「うん…」


エドワード

「──協力はしねぇぞ」

「仲間になった覚えはねぇ」

「お前らがユナとどう揉めようとこっちの知ったことじゃねぇ」

「これ以上吾輩たちを巻き込むな」

「いいな」


神太郎

「当たり前だ」

「こっちから願い下げだ」

「話しかけてくるんじゃねぇ」

「下等悪魔」


エドワード

「なんだとぉ!」


ケイコ

「エド‼︎」


エドワード

「……」


ケイコ

「──月夜」


月夜

「!」


ケイコ

「あんたには悪いことをした」

「ごめんなさい」

「だけど」

「もう巻き込まれるのは勘弁してほしい」

「あなたには同情するけど」

「私たちができることはないの……」


月夜

「……大丈夫です」

「私の問題です」

「なんとかします」


ケイコ

「……それじゃ」


土を踏む音


月夜

「ケイコ先輩…」

「元気になってよかった……」


神太郎

「まったく甘ちゃんだな」

「おめぇは」

「お前を利用しようとしてたんだぞあいつは」


月夜

「そんなの!」

「先輩には先輩の都合があったんだよ!」

「ケイコ先輩は──」


神太郎

「なぁ」


月夜

「何⁉︎」


神太郎

「──悪いが少し黙っててくれないか」

「最高に今気分が悪くなっちまった」


月夜

「──え?」


土を踏む音


辰美

「──神太郎」


神太郎

「……」

「何しに来やがった」

「辰美」


辰美

「ご挨拶ね」

「──婚約者の様子を見に来ただけよ」

「何か不満かしら?」


To be continued….

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十字架を背負ったばけもの 有本博親 @rosetta1287

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