第12話
◯ 10年前 夏 黒翼家本堂
鼎
「神太郎‼︎」
「泣くな‼︎」
「男の子じゃろ‼︎」
神太郎
「ひっくひっく」
「だって」
「痛いもん……」
「もう嫌だよ……」
「おばあちゃん」
鼎
「『経文心体術』は我が黒翼家のみに伝えられる秘術……」
「施術を受けられるのは黒翼の『男子』のみじゃ」
「痛くとも我慢せい!」
「お前の兄貴は泣きはせんかったぞ‼︎」
神太郎
「嫌だよ」
「こんな痛いことされて」
「お化けと戦うなんて」
「僕嫌だよ……」
円斎
「……神太郎」
鼎
「自惚れるな」
「神太郎」
神太郎
「⁉︎」
鼎
「貴様のような小童が」
「魑魅魍魎を討伐ができると」
「本気で思ったのか?」
神太郎
「でも……」
「僕が戦うんじゃ……」
鼎
「戦うのは『個人』ではない」
「討伐するのは──」
「250年間」
「悪を恨む」
「先祖の魂じゃ」
神太郎
「⁉︎」
鼎
「お前の体に刻まれたその『オラショ』は」
「聖なる言葉ではない」
「250年間」
「デウス様を信じ続けた」
「──先祖の『怨念』そのもの……」
神太郎
「……おん……ねん?」
鼎
「邪悪な存在を恨み続ける」
「先祖たちの怨念」
「怨念の力が」
「悪を滅するのじゃ」
「お前もわしららカクレキリシタンの末裔は」
「先祖の恨みを代行する」
「ただの『依代』に過ぎん」
神太郎
「……よりしろ?」
鼎
「忘れるな」
「神様は忙しく」
「わしらのような恵まれた人間を救う暇を持っていない」
「先祖たちの『怨念』が」
「悪霊を殺すのじゃ」
「けっして忘れるな」
神太郎
「……嫌だよ」
「怖いよ」
「おばあちゃん……」
「やめてよ……」
「うわぁあああああ⁉︎」
血飛沫
◯ 7月22日火曜日 21:11
某地下駐車場
エドワード
「待て⁉︎」
「ケイコ‼︎」
風切音
ケイコ
「どうしたの?」
エドワード
「なんだこの感覚……」
「ゾクゾクする」
「やばいぞ」
「何かやばいぞ⁉︎」
ケイコ
「やばい?」
「何を言って……」
「──え?」
月夜
「⁉︎」
タイラ
「何だあれは……」
トーマス
「──あれは⁉︎」
孝一
「……出やがった……」
「ついに」
月夜
「ひぃっ⁉︎」
怨霊のうめき声
月夜
(誰なの?)
(神太郎くんの体の中から出てくる……)
(あの青白い裸の『人』たちは……)
(お侍?)
ユナ
「……丁髷に」
「ふんどし……」
「お歯黒?」
「あー」
「なるほど」
孝一
「──話には聞いていた」
「250年前に」
「禁教令で幕府に殺されてきた……」
「カクレキリシタンの『怨霊』だ」
月夜
「……怨霊?」
孝一
「『経文心体術』っていうのは」
「古代中国の『還魂術』と呼ばれる」
「死者復活の呪術をベースに作られた禁術だと」
「聞いたことがある」
孝一
「オラショはカクレキリシタンたちの呪文としての役割だけじゃなく」
「あの世とこの世を繋ぐ『目印』でもある」
「──あの刺青は」
「あの世から……」
「カクレキリシタンたちの怨霊を呼び寄せやがったんだ」
月夜
「ど」
「どういうこと?」
タイラ
「──つまり」
「神太郎くんは怨霊を呼ぶ『磁石』みたいな」
「能力を持っているってことだ」
月夜
「磁石?」
トーマス
「あの子の刺青に触れて」
「人狼や僕たち悪魔がやられたのは」
「神聖な力でもないってことよ」
トーマス
「──虐殺された人間の」
「『怨念の力』が」
「僕たちを退く力を持っていた」
「そういうことよ」
タイラ
「……大したものだよ」
トーマス
「ええ」
「すっかり騙されたよ」
「結局カクレキリシタンも」
「僕たち悪魔と」
「『同類』だってことだね」
風切音
ケイコ
「くっ⁉︎」
「当たらない⁉︎」
エドワード
「離れろケイコ⁉︎」
「こいつらはあの世から召喚された『幽霊』だ‼︎」
「実態がそもそもねぇ⁉︎」
「パンチや蹴りでぶちのめせねぇぞ」
首を掴まれる音
ケイコ
「がっ⁉︎」
「うぐ‼︎」
「こっちが触れないのに……」
「向こうは触れるわよ……」
エドワード
「何⁉︎」
ユナ
「あーなるほど」
「肉体に干渉できなくても」
「悪霊って」
「『幽体』には干渉できるのね」
カクレキリシタン怨霊
「死死死死死死死」
「殺殺殺殺殺殺殺」
ケイコ
「がっ⁉︎」
「や」
「やばいわ」
エドワード
「ケイコの幽体が…」
「肉体から分離しかけている⁉︎」
「あいつら」
「魂を無理やり剥がす気か⁉︎」
ケイコ
「あ」
「あぐ⁉︎」
エドワード
「チキショウ⁉︎」
「ケイコ‼︎」
「吾輩をかぶれ⁉︎」
「そいつらをぶちのめさないと──」
「死ぬぞ⁉︎」
ケイコ
「そ」
「そ…うしたいのは」
「やまやまだけ……ど」
「からだが……うごか……ない」
エドワード
「ケイコ⁉︎」
「くそ‼︎」
「ユナ‼︎」
「チャーリー‼︎」
「このままじゃケイコが危ない⁉︎」
「助けに来てくれ⁉︎」
チャーリー
「──は?」
「何言ってやがるエドワード」
エドワード
「⁉︎」
ユナ
「これはケイコちゃんが仕掛けた『勝負』だよ」
「ケイコちゃんが負けを認めない限り」
「あたしたちは助けられないよ」
エドワード
「な」
「なんだと⁉︎」
ユナ
「それにあたしおばけ苦手なんだよねー」
「なんか触られるときもいっていうかさ」
エドワード
「貴様ぁああ⁉︎」
「裏切るつもりか⁉︎」
地面を蹴る音
孝一
「え?」
「おい⁉︎」
タイラ
「月夜ちゃん⁉︎」
トーマス
「バカ‼︎」
「今あそこに行くなんて⁉︎」
月夜
「やめて‼︎」
「神太郎くん‼︎」
「ケイコ先輩を」
「殺さないで‼︎」
神太郎
「……」
カクレキリシタン怨霊
「娘娘娘娘娘娘娘娘娘娘」
「殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
「死死死死死死死死死」
月夜
「ひっ⁉︎」
「離れて⁉︎」
「来ないで⁉︎」
ケイコ
「……つき…」
「よ……?」
月夜
「ケイコ先輩⁉︎」
「この‼︎」
「ケイコ先輩から」
「離れて‼︎」
「うわぁ‼︎」
孝一
「ダメだ……」
「人数が多すぎる……」
「一体何人いるんだ……⁉︎」
タイラ
「……おい」
「そこの太っちょ」
孝一
「あ⁉︎」
「なんだ⁉︎」
タイラ
「僕を解放しろ」
「倒せるかわからないが」
「僕の『銃』なら」
「倒せるかもしれない」
トーマス
「無駄よ」
「タイラ」
「あの数を見て」
「10人どころじゃないわよ」
「30…いや40…」
「もっと増えてきてる」
「まるで無限増殖する『ゾンビ』みたい……」
「機関銃で一掃してもきっとキリがないわ」
タイラ
「それでも」
「少しでもこっちに気が逸れるなら」
「やる価値はある」
トーマス
「……タイラ」
「どうして?」
「まさか月夜ちゃんのこと」
「本気だった?」
タイラ
「──どうやら」
「そうらしい」
「自分でも驚きだよ」
孝一
「く⁉︎」
「仕方がない⁉︎」
「裏切るんじゃないぞ‼︎」
解除音
月夜
(……う)
(もうダメ……)
(体が……)
(いうことをきかない……)
カクレキリシタン怨霊
「怨怨怨怨怨怨怨怨怨」
月夜
「神太郎くん……」
「お願い……」
「目を覚まして……」
鼓動音
神太郎
「……」
「寄生虫」
「いい加減」
「俺の頭から離れろ」
エドワード
「⁉︎」
「お前…⁉︎」
流血音
神太郎
「……昔からそうだった」
「俺は帽子が似合わねぇ」
「ましてや」
「女物はとくにな」
月夜
「神太郎…くん」
ケイコ
「……」
神太郎
「ご先祖様よぉ」
「あんたたちのことは心から敬意を表している」
「だがよぉ」
「自惚れるんじゃねぇぞ」
「戦ってるのはあんたらじゃねぇ」
「この『俺』だ」
カクレキリシタン 怨霊
「殺殺殺殺殺殺‼︎」
神太郎
「神様は忙しいんだ」
「この俺もな」
「あんたらの相手をしてる暇はねぇんだ」
怨霊たちの雄叫び
神太郎
「──秒で斃しな」
「かかってきな」
「ご先祖様」
To be continued…
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