第六話 討伐隊
王国の聖宮には、選び抜かれた精鋭達が集まっていた。
聖宮の聖騎士はもちろん、王国軍から推薦された者、高名な魔術師や僧侶などがずらりと並ぶ中、私のようにエクラン王立学園を卒業したての若手も交じっている。
魔王は数十年に一度訪れる災厄だ。
千年前にこの世に現れ、世界を恐怖の底に陥れた魔王は、ノワール、ラン、ルーフス、ヴァイス4人の英雄によって倒された。
けれど魔王は完全には滅びなかった。
魔王はその後、定期的に復活しては大気を濁らせ、大地を腐らせ魔物を狂わせ、人を恐怖に陥れてきた。
その度に人々は総力をあげてかつての英雄の名を冠した討伐隊を結成し、魔物から人々を守り、魔王を倒してきた。
「カメリア、やはり呼ばれてしまいましたか」
レニーだ!
わ、また、背が伸びた?
弾みそうになる声を必死に抑えて、会話を続ける。
「一応S級だもの。仕方ないわ。レニーは何? 学者枠?」
「ええ。探索役として呼ばれました。カメリアも『ヴァイス隊』ですよね。この隊、
「やっぱり……そんな気はしてた」
討伐隊は伝統に則り年齢で振り分けられる。
そして勇者役である隊長には、その年代の能力が高い貴族が抜擢され、隊に王族がいる場合は王族がそれを担う。
「残念。僕は、君が
レニーはにっこりと笑う。
「もう、変な事言わないでよ」
彼の声音に僅かに混じる切なさ感じて、私は直ぐに首を振る。
勇者の最大の仕事は、封印する為に伝説の宝剣で魔王の首を刎ねる事だ。
私は、そんな役目は絶対に担いたくない。
「カメリア!」
振り向くと、ジェラルドが笑顔で手を振っていた。
あ、そのままこっちにやって来る。
腐れ縁からは、中々逃れられないらしい。
***
荒れ狂う魔物を鎮めながら、魔宮を探して討伐隊は旅をする。
今は瘴気の濃い砂漠の中を進んでいた。
「『今回のヴァイス隊は精鋭揃い。4隊の中でも抜きん出た戦果をあげている。魔物に襲われた町村8つの防衛に成功。暴走した古龍を3体仕留めている。魔王打倒は最も若い戦士達が集うヴァイス隊に期待がかかる』ですって」
「何それ?」
「さっき遠視魔法で読んだ今日の『アダマンド・ポスト』の一面。王子様が
討伐隊のメンバーは全部で20名。
私は、タナとシシーという歳の近い2人と仲良くなり、戦闘が無い時はこんな風に雑談を交わしながら進んでいた。
「カメリア、芸能欄にまたプチ特集されていたよ。『勇者ジェラルドと聖女カメリア』のロマンス」
タナがクスクス笑う。いつもながら無責任な報道に溜息が出る。
「はぁ⁈ 芸能欄って。こっちは命懸けでやってんのにふざけんなっつーの」
シシーが私以上に怒ってくれた。
「シシー、貴女からもクレーム送っておいて」
実際私は既に何回も抗議している。
「学園時代、殿下が繰り返しカメリアに求婚していたのは割と有名な話なんだろ。気にするな。魔王の脅威に晒されて、人々も不安なんだよ。色恋ネタのひとつやふたつ提供してやりな」
「タナ、人ごとだと思って酷い。でまかせの熱愛報道なんて迷惑千万よ。それに聖女なんて扱いは心外、私はただの魔術師なのに……」
「しっかし、新聞のネタさ、ウチらの状況とかは意外と正確に伝えてんだよね。一体誰が情報リークしてんだろ」
私達の戦況はまずは王宮に伝えられる。
私は思わず、先頭を行くジェラルドを見た。
「アイツさ外堀から埋めようとしてんじゃねーの。爽やかな笑顔の裏で何考えているか分かんねぇ奴だからな。絡め取られないよう気をつけろよ。アタシは……応援してるから」
シシーがヒソヒソ耳打ちしながら、チラッとレニーを見た。
見た目や言動に似合わない鋭いシシーの励ましに、私の頬は熱くなった。
「南方、オアシスの街トラキス上空に魔物の群れの反応があります」
探索役のレニーが声をあげた。
皆一斉に準備にかかる。
転移魔法を開始する者、瞬足の道具を取り出す者、飛行術を施し飛び上がる者など様々だ。
「アタシは先に行くよ」
シシーは無詠唱で白銀のグリュプスを呼び出した。
「私も乗せて」
「オッケー」
私達は、翼の生えた大犬のような神獣の背に乗り、紺碧の空と赤い大地の間を矢のように進んだ。
「あそこ、ワイバーンがカラス並みに群れてる……カメリア、撃てる?」
「勿論」
私は光の精霊の加護を受けた浄化魔法を最大出力で放った。
続けて2発、3発、4発。
十数体は我に返って飛び去っていくのが見えた。
「さっすがぁ。これでみんな大分楽になるのね」
「私は下から住民の救助をするね。シシーは上空から追い払ってくれる」
私はグリュプスから飛び降りると、
街に満ちる瘴気が異常に濃く、人にも影響を及ぼすレベルだったので併せて浄化魔法も展開させながら進んだ。
程なく他の隊員達も次々と到着し、猛り狂う魔物を撃退し始めた。
新聞報道は間違っていない。
私達ヴァイス隊は本当に強いのだ。
剣を閃かせ、狂いきった魔物を屠るジェラルドは、S級剣士。迷いのない鮮やかなその剣は国一番と賞賛されるだけのことはある。
彼だけでなく、シシーもS級の召喚師であり凄腕の射手、タナだって火炎と氷結の双剣を操るS級の魔法剣士だ。
今回のヴァイス隊員はいずれも何らかのS級持ち。破格に強く仕事も早い。
あっという間に多くの魔物は逃げ去り、理性を完全に失った魔物は倒された。
治癒魔法が使える者は人々の手当を、修復魔法に秀でた者は壊れた建物や道路を修復しにかかっていた。
私は、魔王の瘴気から街を護れるよう、都市全体に守護魔法を施して回る。
途中、橋の再建作業をしているレニーを見つけた。
術を終えた彼が一瞬ふらついた様に見えた。
「レニー、怪我とかしてない? 大丈夫?」
「まさか、元気いっぱいですよ」
平静を装っているが、どこかおかしい。
いつもより呼吸が浅い気がする。
その日の夜
町には料理屋兼宿屋があって、今夜はそこで休む事ができた。
魔術師は夜は静かにマイペースで過ごす事を好む。
そのため、部屋数に余裕がある場合はひとり部屋を選択させてもらっていた。
深夜、私はそっと部屋を出て2つ隣のレニーの部屋の前に立っていた。
—— お願い、開けて。
魔法で呼びかけると、驚いた表情でレニーが出てきた。
「どうしました?」
「入れて」
断られる前にサッと中に入る。
「どうしたんです?」
戸惑うレニーをよそに私はそのまま部屋の中に進み、外部に音が漏れないよう消音の魔法を使った。
「何か悩み事の相談とかですか?」
心配そうにレニーは首を傾げた。
「まぁそんなところね。じゃあ、早速だけれどレニー、服を脱いでくれる?」
「…………え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます