ガサツな女戦士が時々女を見せてくる話

タヌキング

女戦士だって女の子

突然のことだが僕は異世界転移者である。

そんでもって、その世界の王様から勇者として魔王討伐を依頼されるという黄金パターンで旅に出ることになった。

いきなり一人で行くというのは流石に怖いので、凄腕の戦士を一人連れて行って良いことになったのは正直助かる。


「ガハハッ♪宜しくな勇者さんよぉ♪アタシの名前はアンリって言うんだ。」


連れて行くことになった戦士はビキニアーマーを着た女戦士で、褐色の引き締まった肌、モナカアイスみたいにバキバキに割れているシックスパックのお腹、それでいてたわわに実っている胸が何ともセクシーで、目のやり場に困った。


「なんだ?照れてんのか?おいおい勘弁してくれよ。アタシはこんなチェリー勇者と旅しないといけないのかよ。先が思いやられるぜ。」


むっ、失礼な人だな。

いくら顔が良くて、声が鬼滅の刃の甘露寺さんだからって、こんな失礼な人と旅をするだなんて憂鬱である。

しかし、王様からの紹介だけあって、アンリさんはめっぽう強く、大斧を振り回しながらモンスター達を蹴散らしていく姿は鬼神の様であった。


「おい、お前も前に出て戦えよ。男だろ?」


アンリさんはそんな文句を僕に言ってきたが、僕は魔法を使うことに長けている魔法使い職であり、前線に出て戦うのは少し無理があるってもんだ。無茶ぶりはやめて欲しい。

彼女の体育会系のノリには少しウンザリしていたが、ある日のこと。


「次の町に着くまで四日は掛かる。なんで必然的に野宿することになるが我慢しろよ。」


別に野宿は良いんだけど、イチイチうるさいなこの人。

こうして野宿をしながら旅を続けていたんだが、一日目、二日目と何だかアンリさんが僕から遠ざかろうとしていることに気が付いた。一緒に歩いて居ても、ある一定の距離を取ろうとするのである。

なるほど、僕も嫌っている様に、向こうも僕のことを嫌っているのだろう。そう考えると合点がいく。

それでも良いかと別段何も言わなかったんだけど、流石に十メートルぐらい離れ始めたので、このままでは意思の疎通とか戦闘の連携とかに差し支えると思った僕は、駆け足でアンリさんの元に駆け寄った。

すると彼女は慌ててこう言うのだ。


「ちょ、あんまり近づくなよ。風呂入って無いから汗臭いんだよ。恥ずかしいから離れてろ。」


えっ?何かの冗談かな?

そう考えた僕だったが、アンリさんの顔がメチャクチャ赤くなっていることに気が付き、これは本当に恥ずかしがっているのだと気付いた。

汗の臭いを気にするなんてガサツな女戦士には考えにくい乙女な行動である。そんな妙な所で女を出してくるアンリさんに僕は興味を持った。



四日後になって町に到着し、同じ宿屋の隣同士の部屋に泊まることになった僕等。部屋に入る際にアンリさんから「絶対、アタシの部屋に入って来るなよ。入ってきたら首を刎ねる。」と真顔で言われたので、僕はブルリと震えてしまった。

一瞬、童話の【ツルの恩返し】を思い出したが、アンリさんが機織りしているところを想像すると、あまりの似合わなさにブッと吹き出して笑ってしまった。

まぁ、そのあと旅の疲れがどっと出た僕は、ベッドに横になるなり寝入ってしまったのだが、暫くしてパッと目が覚めてしまった。

外はさっきまで晴れていたのにシトシトと雨が降っており、空にはどす黒い雨雲が浮かんでいる。

寝起きでぼんやりとしていた僕はそんな空を見上げて、これは雷の一つでも落ちるのではないかと考えていると、少し経ってから本当に雷がピシャーンと落ちて来た。これは結構近い所に落ちたな。落ちた後も、まだゴロゴロと空が音を立てているので、まだいくらかは落ちてきそうな雰囲気はある。


「ぎゃああああああああああああ‼」


宿屋の中から聞こえてくる怒号。いやこれは悲鳴なのだろうか?とにかくバカデカい声がして、僕は耳を塞いだんだが、そうこうしている間に部屋の扉がバキッ‼と壊されて、ある人物が部屋の中に飛び込んできた。

その人物とはピンクのネグリジェを着て、クマのぬいぐるみを両手に抱えた大柄の女性であった。というかアンリさんだった。


「雷がおっかねぇ‼」


そう言い放つと僕の所まで駆け寄ってくるアンリさん。いやいや、おっかないのは僕である。こんな奇抜な格好の女戦士が部屋の中に入って来るとか、中々の恐怖体験ですわ。


”ピシャーン‼”


「ぎゃあああああああああああああああああ‼」


二回目の雷に悲鳴を上げるアンリさん。同じ声なので先程の悲鳴もアンリさんだったのだろう。どうやら雷が苦手な様で、普段は獰猛なモンスターに勇猛果敢に立ち向かっていく彼女なのだが、今はひっくひっくと泣き始めた。


「もうやだ。雷無理。」


なんだこれ?可愛いじゃないか。ギャップ萌えとはこのことだろうか?胸がキュンキュンする。


「アンリさん、宜しければ僕の部屋にずっと居ても良いですよ。」


「グスッ・・・ホント?」


可愛い、というかなんかあざとい。ということで雷が鳴りやむまでの間、アンリさんは僕の部屋に居た。普段メスゴリラなくせに、こんな時ばかり女性アピールして来るんだから堪らない。



そして雨雲がすっかり去って晴天になった次の日の昼。


「よし、出発するぞ。」


宿屋の前でアンリさんと待ち合わせると、昨夜のことを無かったことにしたのか、普段のガサツなアンリさんに戻っていた。


「テメーちゃんと寝たか?寝不足で足手まといになるようじゃ困るぜ。」


寝不足だよ。アンタが昨日訪ねて来たから明け方まで寝れなかったからだよ。

なんかムカついたので、僕はある呪文を唱えることにした。


「ピンクのネグリジェ、クマのぬいぐるみ。」


この呪文の効果はアンリさんの顔を赤くさせることが出来るのだ。凄いっしょ。


「テ、テメー昨日のことは忘れろ‼頭カチ割るぞ‼」


照れ隠しで頭をカチ割られてはたまらない。

まぁ、彼女の女性らしい面も見れたので、今後の旅は楽しいものになりそうである。







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