2人目 光A(?歳)


私たちの存在は、人間に言わせると

光。妖精。天使。UFO。プラズマ生命体。神。らしい。

しかし、実際は神とはちがう。


私たちの役割は、

宇宙からのメッセージを受けて、

ただ人間を見守り導くことだけ。


私たちは、人間とともに誕生し、

その人間の生涯のパートナーとなり、

遠く離れた場所から人間を見守っている。


私たちの体には特別な力が宿っているのだが、

その力を人間に使うことは禁じられている。

その力を人間に使っていいのは、

パートナーに命の危険が迫っている時だけ。

それが私たちの掟だ。


掟を破った者は、力を奪われ、

どこかに連れて行かれて別のなにかになるらしい。

連れて行かれて戻ってきた者はいないから、

詳しくは知らない。


私の兄もそうだった。

正義感と思いやりのある優しい兄だったが、

パートナーの女の子を借金地獄から救い出すために

力を使い連れて行かれた。


今までたくさんの仲間が連れて行かれたが、

宇宙からのメッセージが止むことはない。


昨日の夜私は、宇宙から緊急メッセージを受け取った。

いまから200日の間に私のパートナーの命に

危険が及ぶというのだ。

人間同士のいざこざが原因で命を落とす

確率が80%を超えた。

力の使用許可もおりた。


私は今朝も、いつもの場所で

パートナーを見ている。

今日は朝から強い雨で見通しが悪い。

早く二人きりになれる場所に行き、

メッセージを伝えなければならない。



私のパートナーは朝が弱い。

今日も他の人間たちは皆すでに住処から

別の場所へ移動し、勉強や仕事という

ノルマをこなしているというのに、

私のパートナーは、やっとお目覚めのようだ。


パートナーは住処を出ると、

小さな穴の空いたビニール傘をさして、

とぼとぼ歩き出した。


パートナーは、しばらく歩くと

よく乗っているバスという乗り物に乗った。

学校へ行くようだ。


しかし、私は知っている。

パートナーは学校には行かない。

最近どういうわけか、途中でバスを降りて、

大きな木が沢山生えている大きな公園で

40分ほど休憩している。

その後は、ゲームセンターやカラオケボックス

という場所で時間を潰し、

日が暮れると住処へ帰っているのだ。


二人きりになって話せるとしたら

公園ぐらいだろう。


私の予想通り、バスは公園近くの停留所で止まり、中からパートナーがお腹を擦りながら降りてきてそのまま公園のトイレに駆け込んだ。


23分後。


青白い顔のパートナーがトイレから出てきた。

10分くらい前に雨は止んでいる。


誰もいない公園のベンチに腰を掛け、

カバンから紙タバコと着火道具を

取り出し紙タバコに火をつけた。


『シュ、シュ、シュボッ』

『…ふー』


ため息をつくように煙を吐くと、

パートナーはベンチに寝そべり、空を眺め、

一瞬考えるような表情を見せるとすぐ目を閉じた。


大きな木に囲まれたこの公園は、

この時間帯はほとんど人間は立ち入らない。

いまがチャンスだ。


私は太陽の日差しにまぎれ

パートナーとの接触を試みた。


しかし、なんて伝えればよいのか。

言葉にするのは難しい。

伝え方を間違えて死期が早まりでもしたら

本末転倒だ。


そうこしているうちに、

パートナーが目を開けてしまった。

何かを取り出しそれを眺めたあと、

突然叫びだした。


『んぁああ!めんどくせぇ!』


パートナーは

手に持っていた何かをカバンの奥の方に仕舞い、

持っている紙タバコの灰を人差し指でトントンと

軽く叩いて落とす。

そしてまた、空を見上げた。

なにか考え事をしているように見えた。


そして、


パートナーと目が合った。

ずっと見てくる。


存在に気付いている?

偶然にしては長すぎる。

見られている。

なんか、ドキドキしてきた。

まずい、力が爆発しそうだ。


『パンッ』

小さい破裂音とともに私の体から何かがとれた。

カケラ?


そうだ。これを使おう。

これをパートナーの体内に入れておけば、

私の目の届かない場所にいるときでも、

パートナーを守ることができるかもしれない。


これは賭けだ。

力を使う許可はおりているが、

力を与えて良いとは言われていないのだ。

この行為が掟に反する行為なら、

私も兄のように回収される。

しかし、パートナーの命がかかっている。

考えている暇はない。


私は覚悟を決めた。


パートナーとの距離と角度が合っていないと

意識の領域に入ることができない。


私は少し左にズレて角度を調整し、

少しだけパートナーに近づいた。

よし。これなら行ける。


そしてまっすぐ

パートナーの意識の中へ入っていく。


そこは真っ白な世界。

目の前にパートナーが裸で立っている。

やっと二人きりになった。


これほどまで至近距離でパートナーを見るのは

初めてのことで、とても緊張する。

パートナーはよくみると可愛い顔をしている。


髪はクルクルパーマ、目は細く、

下唇が上唇より少し大きくぷりんと前にでている。

背は思っていたよりも高く、体は細い。


パートナーは、この意識の世界に来るのは

初めてのようで、細い目をしきりにパチパチさせている。


私はパートナーに声をかけた。

『あの、すみません。いきなりで驚きましたよね。』


私の声に反応した。だが、

パートナーはいつまでもキョロキョロと

あたりを見回している。


私たちには実体がない。

しかしここはパートナーの意識の世界だから

声をかければ、その情報から私の姿を作り上げて

見えるはずなのだが、パートナーにはまだ

それはできないようだ。

想像力というものがあまりないようだ。


私は、パートナーの意識の中から、

情報を集めて、パートナーの理想の姿を作り出した。


青い瞳。鼻は高く。目は大きくて切れ長。

ツヤツヤとした厚い唇。

少しウエーブがかかった金色の長髪。

透き通るような白い肌。手足は細長い。

背はさほど大きくない。

白いワンピースのような服を着て

靴は履かない。


好きな異性はこういうタイプらしい。

自分で作り上げてなんだが、私も少し気に入っている。

そしてやっと、パートナーがこちらを向いた。

ちゃんと見えているようだ。すごく見てくるが

話しかけてこようとしない。

仕方がないからまた、私から話しかけることにした。


『さっき目が合って、気になって来ちゃいました。なんか困ってそうだったし。』


パートナーは口をぽかんと半分開けて、

私の全身をなめるように見てきた。


すると一瞬にして私は裸になっていた。

パートナーがなにか想像しているようだ。

次の瞬間今度は大きめの白シャツだけを

一枚着せてられて、白くてふかふかした物の上に

座らされていた。


私はとっさに胸のあたりを腕で隠した。

『やだぁ。あまりジロジロ見ないでくださいよ〜。これは仮の姿なんですけどね。私は光なので。でもなんか恥ずかしいです。』


私がそう言うと、今度は私の太もものあたりに

頭をのせて横になりだした。


人間の男というのは何時もこんなことを

考えているのか。私には理解ができない。

何が楽しいのだろうか。

そんな事を考えていると、いつの間にか

もとのワンピース姿にもどり、

私はパートナーの前に立っていた。

そしてやっとパートナーが口を開いた。


『へー。光…ちゃんっていうんだ。光ちゃんはどこから来たの?家はこの辺?何年生?俺と同じくらいかなぁ。』


『だめだ落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。落ち着け。』


パートナーが壊れはじめた。

私はパートナーの目を見てゆっくり丁寧に

話しかけることにした。


『私はこの空の向こう側から来ました。実を言うとね、私…ずっとあなたのことを見てましたよ。ずっとね。篠崎シンヤさん。』


すると、パートナーが反応した。

『ずっとっていつから?』


『シンヤさんが誕生したときからずっとです。』


そう言い私は両手を出し、

パートナーの両頬を両手で優しく包み込み

額と額をくっつけて、そっと目をつぶった。


『シンヤさん。あなたに渡しておきます。

困ったことがあったら使ってください。』


そして、私の額からカケラをゆっくりと

パートナーの額にうつした。


『その光は私の一部。カケラみたいなものです。私が空に輝き続ける限り、その力を使うことができます。ただし気をつけてください。いまこの瞬間から、その光はあなたの一部になりました。走れば疲れます。その力を使ったあとはちゃんと休んでください。』


目的を果たした私は、

パートナーの意識の世界から外に飛び出し

元の場所にもどった。


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