第5話 調理部の廃棄物質製造機

「いや、本当に無いのよ」


「そんなにひどいの」

 クラスメイトの田川さんは私によく愚痴をこぼします。


「もうね。玉子焼きは板だし、砂糖入れ過ぎたのに塩をたくさんいれるし、タピオカミルクティーをごちそうしてやるって言われたのに、なんか油浮いてるし、なんて言ったと思う?」


「美味しいから入れた」


「大陸の物だから試しにごま油を入れてみたって」

 私にとっては魅力たっぷりの先輩です。調理部の柳川きらら先輩、兼部が良ければ調理部に入っていました。


「今度の試食会に行かせてよ」


「なに言ってんの近藤。止めときなって死ぬほどまずいから」


「物は試しよ」

 週末練習の無い日に調理部を訪れた。


「君、名前は?」


「近藤と申します」


「名を名乗らないのは私と同じ名前に難があるのか? まぁいい私は柳川だ。今日はスイートポテトを作ろう」

 けっこう有名なサツマイモで親戚が送ってくるという。変な形のやつをこちらに回したそうだ。


「さて、まずはサツマイモを茹でよう。まずは鍋にサツマイモをいれて火をいれる」


「柳川先輩」


「なにかな近藤くん」


「茹でるのに水はどうしますか?」


「愚問だ近藤くん。芋から水が出て来るだろう」


「分かりました」

 柳川先輩がそういうならその通りだろう。


「あの部長、焦げ臭いですが」


「この焦げ臭いのが水が出ているからこその焦げ臭いのだよ」


「それにしても煙が出過ぎでは?」


「これくらい大したことは無い」

 火災報知器が鳴った。飛び込んだ先生にすぐに火を消せと言われるも「スイートポテトはこれからだ」と、すごいカッコいいことを言う先輩に胸がときめいた。


 コンロの火は消され、冷めてから元々黒かったと思うサツマイモは没収となった。


「教員はわかっていない。料理の神髄しんずいを」


「そうです。その通りです」


「近藤くんはよく分かっているでは無いか。これは見込みがありそうだ」


「止めときなってそのうち家を爆発させるよ。この人」


「失礼な。私は食品に愛をこめて美味しいと言ってもらえるように」


「はい、これ」

 調理部の方が柳川さんに差し出しました。


「なんだ。この黒いやつは」


「柳川先輩がさっき作ったスイートポテトです」


「食べろというのか、このまずそうなやつ」


「食べることが出来ないのですか」


「塩コショウを振っただけの生肉は食えないだろ。調理過程では口に出来ないものは世にたくさんある」


 そう来たか。そんな言葉が部員から漏れた。


「皆さんひどいです。柳川先輩が愛を持って作ったスイートポテトにケチをつけるなんて」


「いやこれはどうみてもゴミでしょ」


「柳川先輩の愛情なら私なんでも食べます」

 黒くて調理前よりは少し軽くなったサツマイモを食べた。


「近藤くん、今回は失敗だった。ちょっと火を入れ過ぎたのだ。吐き出したまえ」


「ちょっと苦いけど、ごちそうさまでした」


「そんな、そんな」


「何も卑下ひげすることはありません。私の心は先輩の物です」


「何でも食べてくれるのか?」


「私は身も心も先輩に捧げます」


「近藤くん」


「柳川先輩」

 ひしと抱きしめ合った。先輩はいい匂いだな。


「その近藤くん、身も心もということはそういうことでいいのか」


「はい、先輩の為なら何でも食べますし、調理方法も先輩が思うがままにオリジナリティを示してください」


「その食材選び」


「はい」


「お泊り」


「調理の研鑽の為なら」


「一緒のお布団」


「仕方ないです。一つしか無かったら」


「柳川先輩、こっち見んな」


「そのエッチなこととか」


「ハグでいいなら」


「柳川先輩、こっち見んな」


「やはり健全な高校生なので、性欲は解放したいわけその相手にはなってくれる?」


「お姉ちゃんがSMクラブ? というところで働いているので」


「柳川先輩、こっち見んな」


「その優しい方がいいな」


「分かりました」


「分かっていないな。これは分かってない、分かった」


「先輩の初めては私の物ですね」


「あー、もう。分かっているのかいないのか。どっちさ」

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