第6話 名前がきれいな女の子
いつも目で追っている。
二年の
可愛いのよ、これが。食べ方が下手でいつも口の端が汚れているのが好き、階段上ったあとに息が荒いのが好き、休み時間に本のページをめくる指が好き、テストの時に背中を丸めて用紙に向かっているの好き。
私は推薦で大学が決まっている。教室がピリピリしている中で緊張感が無いのがいるのはまずかろう。そう先生と交渉した。「調理室で調理をしない」と、いう制限はついたが調理部で和音さんの授業を観覧している。
近藤という女の子は行為を迫って以降、会ってない。もう別れるかもしれない、私の料理をためらうことなく食べてくれる希少な存在だったが、今の私は和音さんい釘づけだ。
観察日記と双眼鏡、カメラを忘れることなく準備。
「なにやっているのかな。柳川さん」
全く気付かなかったぞ、新卒。
「人間観察も勉強の一環です」
「じゃ、もっといい勉強をしましょう。国語科の課題を週末までに」
ワーク三冊。薄いとはいえ、これでは和音さんの観察が出来ない。
「じゃ、ここ座るわね」
「え、先生仕事」
「私、今週の仕事は他の先生が代わりにやってくれる算段でね」
「見事な手腕ですね」
「文句ある?」
「いえ」
「いやー、ジャージで仕事出来る仕事場っていいわよね。柳川さん」
課題をやっている方がマシだ。この女は触ってはいけない。こんこんと扉が鳴った。
「どうぞ」
すぐに外向きの声を出す。
「先生、こんなところにいたんですか。それくらい僕がするのに」
教師陣の中では若い三十五歳。一回り違う。
「柳川さんすごい賢くて、話しながらは楽しいのですよ。それでご用は?」
「その生徒の前ですし」
「外で話しましょう」
振り返った目が余計なことをするなと言っていた。しようにもノートとワークと観察セットしかない。
そうか携帯で学校に電話されることを警戒したのか。すたすたと歩く音が聞こえた。部屋にあの新卒が帰ってきた。
「今回はどのような」
「週末はおばあちゃんの介護に行かないと」
「それはお疲れ様です」
「踏み込んで来ないのは偉いわね。私ならチューくらいしてあげるわよ」
「いやですよ」
「ここの先生は大喜びするわよ。それでどういうところが好きなの?」
「どうとは」
「二年の武藤さん。狙っている真面目な男の子多いわよ。どう攻める?」
「まずは初めまして、うちの部に入らない?」
「勧誘だね。断られたら?」
「お弁当はどうしてるの?」
「もうそこまで算段ついてんだ」
「その調理技術うちの部員に教えて欲しい。仮でいいから」
「いいか悪いか」
「一回遊びに来てよ」
「止めた方がいいわよ。それなら美味しいご飯屋さんで勉強がてらどう? の方が妥当よ」
「なんでうちに来たらダメなんですか」
「火災報知器鳴らすわよ」
「ま、それは別件でデートも出来ますね。料理と関係ないことも話せていいですね」
「そうしなさい」
「でも知っているという情報は薄いですね」
「私も困るのよ。早く何とかしてちょうだい」
「なんでですか?」
「大人の事情よ。色々あって武藤が邪魔なの」
「悪いことしていますね」
「早く落としてよ。武藤は先輩好きらしいわよ。もうありのままでいいじゃない? 調理部から見て可愛いなって思ったとか」
「そんな恥ずかしいこと」
「これ、ホテルのランチ券」
「いつの間にこんなもの」
「ここの教師がいかがですかと言ってきたから取り上げた」
怖い女だ。
「当たって砕ける精神でいきなさい。高校生活もあと少しよ」
週末、教室に行ってお弁当の話と調理部から見た話、誘う人もいないから一緒に行こうと誘った。
二つ返事で了承。
集合場所から緊張していた。
「お待たせしました」
まるで、これは。
「初恋だ」
そう小さく言った。
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