第2話 新卒の先生
大人の人が好きだ。そういう傾向にあることは知っていた。それはきっと従姉妹のお姉ちゃんに可愛がってもらったからだろう。当然、初恋はお姉ちゃんでお姉ちゃんが婚約した時点でそれは終わった。
新卒の先生で少し天然な人がいた。そのうち辞めるだろう。うちの高校は偏差値は引くいし、親の民度も低く、教員もやる気はない。新卒は空回りして入職した当時に持っていた希望を失う。
そんなところを何度も見て来た。同時に他の学校から来た局のような女教師、
ところが大体消える五月のゴールデンウイーク終わりにもいて、梅雨時にも持ち、七月も元気だった。フルートを非常階段で吹いている時に見える国語科準備室で準備をしている新卒。
悔しい。
八月のコンクールは早々に終了した。子犬みたいな同級生が楽器を吹かせろと言ってやってきた。何かを勘違いしていたのを感じたので、鎌をかけてみると見事引っかかった。
部長が部員集めにあくせくしているので、そのまま入れてしまおうと思っている。
非常階段は雨の日があったが、夏休みは毎日通った。準備室で新卒はずっと作業をしていた。あの局はいなかった。
ここだ、ここでいかないと何も無い。あの細い指に触れることも、なじみになって卒業写真を一緒に撮ることも無くなる。ここで勇気を振り絞って先生に顔を覚えてもらう。
楽器を早々に直し、国語科準備室の扉を叩こうとした。震える手、止まれ私。
「どうぞ」
「失礼します」
他の先生が何も言わないのか、おそらく地毛なのだろう。少し茶色の痛みのない髪、足は細くて、手の指も細い。
「どうしたの?」
「そのきれいだなって思って」
「髪? よく言われるの。きれいだねって」
私だけが知っているわけではない。その過去にそれを口にして、素直にありがとうを言い続けて、それに慣れさせた男に嫌悪感を覚えた。
「どうしたの?」
「そのいつも仕事熱心で大変だなってこれ良かったら」
急いで買って息を整えてここに入った。
「ありがとう。ビタミン剤嬉しい」
「いえ、それくらい」
「いつもフルート吹いているよね」
見ていてくれた。それだけで気分は高揚し、少しだけ幸せを感じた。
今までたくさんの生徒にそう言ったとしても私にとって今それを言われたのは私の物で瞬間だった。この時に一回でも先生を奪えたのは満足だった。
「私、浅田さんのことうらやましいな」
「全然そんなことないです」
「だっていつも本読んでいる」
「あれはその簡単なやつを」
「努力している君はかっこいい」
今、頭を触られたら色々漏れてしまう。
「ありがとうございます」
「褒められていないだろう。世の男はみんなおかしいよ」
「先生はモテたでしょう」
「でもすぐに離れるの。お前は面白くないってね」
「世の男はみんなおかしいです」
「そういってくれてありがとう。コーラならこの冷蔵庫にあるけど、飲む?」
厚意を遠慮するのは気が引けた。冷蔵庫があるならすぐに汗をかいたビタミン剤なんて邪魔なだけだったのに、優しいな。
先生は少し飲んでありがとうっと言ってくれた。
「おっし、これで元気出た」
「いつも何の準備しているんですか」
「現国が苦手な人にどうやったら関心持ってくれるか。色々作っているけど、上手くいかなくてね。
「いただきます」
炭酸はどちらかと言えば得意ではない。一口で良かった。最後まで飲み切らないとと思っても休憩してしまった。休憩が長かった。
「炭酸苦手?」
「ちょっとだけ」
「じゃ、私手伝ってあげる」
残りあと少しで飲むのを止めた。
「あと上げる。これで気を遣うことないでしょ」
飲み口に触れる寸前、先生はこれでと言った。
「特別だね」
そう囁いた。
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