第31話

 オホン。

 その時、衣ずれの音がして、戸口に人の気配があるなと思ったら、清流帝だった。

「おい、右少史。お前か、まったく。堂々と」

 帝は鬱屈した表情でくっと睨み、それは常の表情なのだが、道臣はしばし帝と対面して硬直。

 そりゃそう。ここは後宮。男子禁制の所に堂々と入り込んで良いわけがない。一応、負傷した非常時だけど。おまけに、私をがっしりと抱き締めていて、何なのか、この状態は・・・。

 というのに気づいて、私と道臣はぱっと離れた。

 しかし、そんなのに構わず、帝はつかつかと入って来て、私の布団の前に座った。

「参ったな。お前が襲われるとは」

「あ、あなたね」

 痛い頭を抱えて、私は怒りがふつふつと沸いて来た。

「あなた、私に常盤御前の失踪の真相を言わないでいるから、こうなったんじゃない。危ない目にあったわよ」

「いやあ、そうだったか?すまない。はーっはっは。けっこう、こっぴどくやられたんだって。頭、痛そうだな」

「笑っている場合じゃないわよ」

 道臣と久理子は、私の清流帝への言いように目を白黒させている。

「あ、これ、私と帝の普通のやりとりだから」

 この帝相手には、最後にはこうなるのよ、誰でも、たぶん。

「あなたの皇后は不審死しているって言うわよ。内裏には、権力を握ろうとする連中らもいるってことも。もうこっちはいろいろ知っているのだから、ちゃんと言いなさいよ。あなた、そういう人らに大勢狙われてるのじゃないの?」

「ううーん、そうだったかな?なあ、どうだ?敷島?うん?まあ、そうかな。そうとも言うか。そういや、そうか。確かに私の皇后は不審死した。そのときの騒動で、常盤御前は姿を消したのだ。そう。あれの犯人は分かっていない」

「皇后が不審死、やはり・・・そうなのね」

 未だにのらりくらりと、真実を告げようとしない清流帝に、私は苛立ちを感じた。

「それを先に言いなさいよ、それを。そうしたら、私も師匠探しをもっと探し様があったわよ。身辺だって、もっと気をつけたかもしれないし。あなた、私のこと、師匠の失踪の原因に気づけないぐらい、バカとでも思ったの?」

「そうでなかったのか?なら、幸い。そうか、気づいたのなら、案外、バカでなかったか」

「このっ・・・・」

「フフフ、皇后の死の真相にも近づくのは、それはちょっと危ないことだが、まあ、せわしないお前なら何か知れるかもしれない。投げ槍も投げてみなければ届かぬし、お前なら何か分かるかもなあと思った。私だって帝。知りたいことを知りたいし」

「そういうとこ、やっぱりクズよ。最初から教えておいてくれたらいいのに。私をなんのかんのとうまい話で引き入れ、利用してたんじゃないの」

「そうか?そうだったかもなあ、はーはっは。すまんすまん」

 冗談話のように言うし、はははとさもおかしそうに笑うので、この野郎、心底、そう思った。

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