¥ White&Gold ¥

「イツカさん、これあげます!」


 そう言ってライムさんが差し出したのは小瓶に入った白い粉だ。ラベルの付いていないそれは怪しさ満点で、小さなビニールにでも入っていたら言い逃れが出来ないような見た目をしている。


「えっと、これは、何のお粉なのかな?」

「新しい彼氏、カルテルのボスなんすよ!」

「まっ…!?」

「嘘に決まってるじゃないっすか。入浴剤っす。コスメ買ったら試供品もらったんすけど、あたしシャワー派なんで」


 褐色肌でメイクの濃いライムさんがギャングの隣を歩くのは想像できる。コーンロウなんかしちゃったらもう完璧だ。ともかく入浴剤なら大歓迎。小瓶のコルクをひねると「きゅぽん」と可愛い音がして、これまた可愛い香りが広がった。


「フローラル系っすね」

「うん、いい香り。見た目とは裏はらだね」

「匂いがしなきゃあ、ただのやべえ粉っすよ。人に見られて勘違いされる前に、早いとこ溶かしちゃった方がいいっすよお」

「まったくもう! そういう言い方が誤解を生むんだよ!」


 ライムさんはケラケラ笑ってファンデーションをはたいた。その楽しそうな様子に、私まで愉快な気持ちになる。不良な遊びは、時々楽しい。


「ユニットバスじゃなきゃ自分で使ったっすけどね。あ、それくれた店員さんが、天国行き保証してたっす」

「ほほう。ワシを楽しませられるかのう」

「ウケる」


 豪快なライムさんは客のいるフロアに響く勢いで大笑いした。驚いた黒服がキッチンに入ってきて声をとがらせた。


「おいおい、もう少し静かにしてくれよ!」

「ちっ。うっせ」

「あ? ライムてめえ、いい加減にしろよ」

「せっかく楽しかったのにさあ。お前の声の方がでけえんだよ」

「んだとコラもういっぺん言ってみろ!」


 譲らない二人。小さな火種が燃え上がり抗争が始まる。善良な民である私はショットグラスを三つ並べ、均等に黄金の酒を注いだ。


「はい注目!」


 つかみ合う黒服とライムさんが、ピタリと停止して私を見た。


「喧嘩するなら、踊ろう」


 魅惑の液体を前に、ライムさんは明るさを、黒服は元来の不真面目さを取り戻した。


「「「テキーラ!!!」」」


 酒でぶっとんだ私たちと、キッチンに置きっぱなしにした入浴剤を目にした店長が、勘違いをして卒倒した。営業後、三人そろって説教され、大いに反省したのは言うまでもない。


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