受動的な一瞬

「マイさんミント持ってません?」

「どうぞ」


 錠剤にそっくりなつぶをくちに放り込み、舌先で大事に溶かす。


「……だめだあ」

「ピーチ味嫌い?」

「違います。空腹ごまかそうとしたら、余計におなかすきました」

「そこの乾き食べちゃえば? いくらも手つけてないし」


 そう言ってマイさんが指差したのは客席から帰還した乾き盛り。スナック菓子の盛り合わせのことだ。若い客がノリで頼むことが多く、結局テーブルの飾りになってることが少なくない。

 バッシングでキッチンに回収されると肌荒れを気にしない黒服や限界キャバ嬢がちょこちょこつまむ。疲れているとき、このカゴに盛られたポテチがやたら輝いて見える。しかし……。


「こんな時間に食べたら明日顔ぱんぱんです」

「一枚だけなら平気だよ」

「はあ……。何年一緒にいるんですか? 私が一枚で済むわけないじゃないですか。よりによってコンソメ味ですよ?」

「知らんがな」


 もんもんとしてポテチを睨み付けていると黒服の山下さんが入ってきた。一枚つまみ、咀嚼しながら首をかしげるとカゴのうつわをゴミ箱にひっくり返した。


「ああーっ!」

「え? 何?」

「ポテチが……」

「いやもうアウトだった。残念ながら」

「もったいない……」

「俺嫌だよ。裏で湿気ったポテチ食うキャバ嬢なんて。キャビアとか舐めててほしい」

「黒服とは思えない発言……」

「あはは」


 山下さんは新しい灰皿を持って出て行った。


「マイさん」

「ミントいる?」


 うなだれて首を振った。可哀想なポテチ。今夜は何も口にすまいと決め、喪に服すようにフィルターを噛みしめた。


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