アテンション・ミー
「わあ。スカーフ可愛いですね」
アイナさんのすらりとした首元には美しい布が巻き付いている。ちょこんと結ばれたリボンが大人っぽくも可愛らしい。ひと吹きでほろりとほどけそう。空気みたいに軽いライトブルーの生地だ。
「似合う?」
「CAさんみたい!」
「スカーフたくさん持ってるんだ。綺麗な布に目がなくてコレクションしてるの」
「あるとないとじゃ雰囲気が変わりますね。すごく華やかになる」
「買って満足しちゃうからたまにはと思ってつけてきたんだ。春だしね」
「ちょっと貸してください」
髪を持ち上げると慣れた手つきで結んでくれた。くすぐったさを我慢してアイナさんに身を任せる。肌に馴染むとサラサラして気持ち良い。
「見てごらん。可愛いよ」
更衣室の姿見を覗き込んだ。鏡の中の私はなんだか物静かそうに見える。
「自分じゃないみたい。アテンションプリーズ」
「顔色も変わるからね。似合うよ。素敵な空の旅に導いてくれそう」
「これ集めたくなる気持ち分かります。いろんな色が欲しくなります」
帽子ほどは存在感がなく、アクセサリーと言うには服に近い。一度つければないと物足りなく感じてしまう不思議なアイテムだ。そして旅に出たくなる。
「イツカさーん! 着替え終わったかな? 指名のお客さん来たよ!」
鏡の前でくるくると回っていたら黒服に呼ばれてしまった。
「ねえ、今夜そのまま仕事しなよ。ブルーのドレスとも合ってるし」
「え! いいんですか!」
アイナさんは笑顔で更衣室のドアを開けてくれた。
「もちろんだよ。良い旅を」
いつもとは違う自分でフロアに踏み出した。結び目の揺れを感じ小さくスキップしてしまう。
白い雲も青い空も見えないけれど気持ちは晴れやかだ。ボンボヤージュ!
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