Call me by my name


 リョウさんが名刺のサンプルを見ている。

 それは夜職にとってはお遊び、もとい個性アピールの意味も含んでいるからデザインがたくさんあって見ていて飽きない。シンプルなものからキラキラしたものまで選び放題だ。


「リョウさん名刺作るんですか?」

「うん。源氏名を平仮名に変えたくてさ」

「へ? なんでですか?」

「深い意味はないんだけど……」


 ペンを取り旧名刺の裏に何か書き込んだ。



 "水翼音 リョウ みずはね りょう"



「どう?」

「やわらかく見えます!」

「エルじゃ名字決めてるのあたしだけじゃない? 団体席だと浮くから取ろうか迷ってたんだけど、最初の店で貰ったから愛着があってさ。それで思いついたの」


 優しい顔で字を撫でた。前の店を思い出してるみたい。


「店長さんに決めてもらったんですか?」

「ううん。めーっちゃめちゃお世話になったお姉さん。あんた今日からこれよ!ってフルネームいきなり決められちゃってさ」

「あはは。由来は?」

「水商売、高く飛べ、音を上げるな、利用出来るものは何でも利用しろ。こんばんは、水翼音リョウです」

「響きは可愛いのに意外とマッチョなんですね」


 そうでしょうと言って嬉しそうに笑った。お姉さんの人柄も何となく伝わってくる。


「今じゃ本名に反応できないときもあるよ。ファミレスの予約表くらいなら"ミズハネ"って書くもん」

「好きな名前で生きるべきです」


 サイン入り旧名刺は記念に貰っておいた。名付けのお姉さんの想いはたとえ形が変わってもりょうさんの魂と共にある。


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