ロイヤル・チョコレート・フラッシュ


「お納めください」

「なにこれ?」


 マイさんに小さな箱を捧げる。


「なんだと思います?」

「分からん。成金の煙草の箱にしか見えん」


 思わず納得。きんきんぴかぴかの包装紙には何の印字もなく派手さより怪しさが勝っている。


「まあありがとう。家で開ける」

「えっ今見てくださいよ。こういうのは開けるときが一番楽しいんだから」

「だってなんかこわいよ」


 あきれた笑顔でそう言ってぺりぺりと包みを開く。中からふわりといい匂い。


「チョコだ」

「ハッピーバレンタイン! お世話になってるマイさんのために甘すぎない大人のチョコを探しました」


 鳥の巣みたいな細い紙のかたまりに包まれた一粒の宝石が、お行儀よく中央に収まっている。ダークブラウンの艶々した表面には外見を裏切るように控えめな金粉が振られている。


「こりゃいいわ」

「でしょお! 出勤前にデパ地下駆け回ったんですよ。聞くところによるとその一粒に職人の全てが結集してるそうです」

「包装紙には個性がだだ漏れしてるのに、商品にはブレーキが効いたのね」

「むしろその反動じゃないですか? 派手好きなショコラティエの魂の一粒です」


 妄想しながらチョコを眺める。こんなに綺麗なものが自分でつくれたらどれほど素敵だろう。


「今食べちゃおうかな」

「感想聞きたい」


 マイさんの宝石みたいな爪に摘ままれてこれまた宝石みたいなくちびるへ。すごい。キラキラの渋滞だ。


「いかがですか?」

「おくちの恋人ってかんじ」

「あはは」


 気に入ったらしい。よかった。安心しているとデパ地下の光景を思い出した。


 うきうきと楽しそうに選ぶ人、ちょっぴり恥ずかしそうに選ぶ人、まるで人生の分かれ道みたいな顔で悩む人。


 みんなの頭の中にはそれぞれ大切な人がいる。そう思うと心が温かくなった。


 きっとお菓子の種類なんてどうだっていい。喜ばせてあげたいという気持ちがなによりも尊い。余韻を楽しむマイさんの顔は、私の気持ちも甘くさせてくれた。


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