2日後に幸せになるクリスマス


「こんばんは! デートは上手くいきました?」


 指名客の山田さん。気弱そうに見えるけれど叩き上げのサラリーマンだ。キャバクラより止まり木が似合うこの客は、同僚の女性に恋をしている。


「お陰様で。イルミネーション見て食事して帰ったよ。彼女、観たい映画があるらしくて明後日また出掛けるよ」

「明後日ってクリスマスじゃん! 山田さん、勝負?」

「いや、もう少し様子を見るよ。その時が来たらまた相談させて。女性を相手するなら企画を無理矢理通す方がよっぽど簡単だ。僕にとってはね。イツカちゃんはクリスマス仕事?」

「うん。年内はもう休みなし。大晦日もここにいるよ」

「そっか。僕は今年来るのは今日が最後になるから、なんでも好きな物頼んでよ」


 そう言ってはにかんだ。黒服がサーブしてくれたシャンパンで乾杯すると金色の泡が山田さんを包み込むようにキラキラと立ち上った。


「ねえ、昼職って大変?」

「どうしたの急に。夜辞めるの?」

「私じゃないけど」

「うーん、僕は自分の仕事が一番大変だと思う人間にはなりたくないんだ。だから、そうだな、気難しいクライアントの顔色を窺うのは苦手かな。でも残業はほとんど無いからそういう面では恵まれてるよ」

「山田さんでも苦手があるんだ」

「仕事なんてどれもそういうもんだよ。良い所も悪い所もある。人の転職を心配する気持ちは分かるけど、毎晩異性を相手出来るんだから僕に言わせれば君達こそ驚異だ」


 少し酔ったみたいだ。大袈裟におどける山田さんがおかしくて笑いが止まらなくなってしまった。

 昼職一筋からの言葉に気持ちが少し軽くなる。きっとカレンさんは大丈夫だ。何年もこの世界で生きてきた。きっとどこだってやっていける。私が心配するなんておこがましい事だ。でも……。



「ねえイツカちゃん、あの子の耳すごいね」


 視線を追うと斜め向かいの卓に座るライムさんの流れ星ピアスだ。願いが叶うと教えてあげると山田さんは手のひらを合わせ「あや子さんともっと仲良くなれますように」と言った。


 祈りと呪いはよく似ている。みんなが幸せになれるなら何だって構わない。山田さんのささやかかつ切実な願いに胸を打たれ私も一緒になって手を合わせた。

 黒服が不思議そうに私達を見ている。


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