レモンケーキ
営業後、着替えを済ませ更衣室を出ると目を疑った。フロアのテーブルには寿司桶がいくつも並びラッキーなキャバ嬢達が群がっている。
店長が紙皿を持って近付いてきた。
「イツカさんも食べて。代表が注文してくれたんだ」
「嬉しい! 頂きます!」
代表はいわゆる店のオーナーだけど会った事がない。こうして時々差し入れをしてくれるから優しい人だと思う。胸の中で手を合わせた。
「イツカさんお疲れさまですう。おしょうゆどうぞ」
「ミミコさんありがとう。食べた?」
「おなかぺこぺこでたくさん頂いちゃいましたあ。あっお取りしますねえ」
舞うような箸さばきで手際良く盛り付けてくれた。
「はい、どうぞ。おすしってきれい。ジュエリーみたい」
「詩的だね。さすが料理上手」
「挑戦したくて釣りに行ったことがあるんですよお。さばが釣れたんでしめさばにしましたけどお。マイ竿ほしくなるしマイ刺身包丁ほしくなるし、沼だったんでやめましたあ」
「バレンタイン、カカオから育てたりする?」
そんなわけないじゃないですかあと肩をぺしぺし叩かれた。ミミコさんならやりかねない。
「カカオは育ててませんけどお。部屋にレモンの鉢植えがありますよお。時期になったらレモンケーキもってきますねえ」
「すごいね! 楽しみ!」
ケーキのほうがよっぽどジュエリーっぽい。そう言うとミミコさんは口に手を当てくすくすと笑った。
「食べ物はなんでもきれいに見えちゃうんですう。逆もありますけどお。たとえば事務所の電卓が板チョコに見えたときは病気を疑いましたあ」
「私はめちゃめちゃお腹空いてたときドレスのビジューが金平糖にしか見えなくて自分にびっくりした」
「イツカさんかわいい~」
シャンデリアはデコレーションケーキにしか見えないとかアイナさんのネックレスは飴細工に違いないとか話しながらお寿司を食べた。
美味しいものでいっぱいのミミコさんの世界には綿菓子の雲が浮いている。
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