冬のかいぎ


「イツカ、これあげる」

「おしるこ……?」


 マイさんがおもむろに差し出したのは自販機の缶だ。


「となりのお茶を押したつもりだったんだけどさ。目を疑ったわ」

「あはは。私は甘い物好きなんでありがたくいただきます」


 受け取るとまだ十分温かい。ほっこりした太めのフォントが"あったまるよ~ん"と笑いかけてくるように感じる。


「カイロ代わりに握り締めてきちゃった。ホットドリンク見つけるとつい買っちゃう」

「客にもお湯割り頼まれるようになりました」

「時期だね。甘酒とか出したらウケそう」

「めっちゃいい!」


 白い幸せを大きい鍋でコトコトする。キャバクラの甘酒なんて話題性あるし、夜に飲むのは格別だ。


「あんた元バーテンじゃん。黒服にホットワインのレシピ教えれば?」

「あれ温度調節とか面倒なんですよ。ちゃんとした店で飲むべきです」

「ヒレ酒は?」

「もうふざけてますよね?」


 おしるこ缶のタブを上げた。ひかえめな湯気が溢れてくる。


「ふわあ。幸せ……」

「美味しそうに飲むね」

「ひとくちどうですか? 温まりますよ」

「あんたの表情で十分伝わったからいい」

「冬メニュー、おしるこもありだな。お漬物添えて」

「漬物はいいね。つまみにもなるしね」


 とろみのついたお餅が入ってたらもう文句なしだ。サラサラしたおしるこ缶もオツだけどね。


 眠気を誘うような甘さを楽しんでいると、キッチンのドアが強めに開かれ凍えた黒服が転がり込んできた。涙目だし耳も鼻も真っ赤で可哀想になる。真冬はキャッチにウォッカを持たせるべきかも。新メニュー会議は終わらない。


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