キャバクラ嬢の標本


「ミミコさん腕どうしたの?」


 料理好きのミミコさん。手首と肘の中間に包帯を巻いている。恥ずかしそうにレースの長袖ドレスに着替えていた。


「ヤケドですう。ホットサンドメーカーが空中分解しちゃってえ」


 私は一切料理しないので状況が全く分からない。聞けば熱々のフライパンが腕に触れたようなものだと噛み砕いて説明してくれた。


「痛い? 可哀想に」

「んー、最初はヒリヒリしましたけど今はなんともないですよお。あっコテでヤケドしたことありますかあ? あれと一緒ですう」

「ぐぬぬっ! 想像した……! ちゃんと冷やした?」

「もちろんですう。アタシ、ヤケドの処置は得意なんですよお。昔から料理で失敗しまくりでしたから。あはっ」


 ミミコさんはお先にぃと更衣室を出て行った。入れ替わりでマイさんが入ってくる。


「あんたまだいたの。ちょっとロッカー開けさせて」

「マイさん火傷した事あります?」

「男遊びの話?」


 思わず吹きだした。何言ってんだこの人は。


「アバンチュールですか。教えてください」

「今は昔、板金屋のヨシキという男ありけり」

「お! いいぞ!」

「毎晩愛し合い、朝も時々愛し合いけり」

「おおおっ」

「いつしかヨシキは帰ってこなくなりましたとさ」

「なんすかそれ……」


 火傷どころか陰鬱ストーリーじゃねえか。

 このテンション、どうしてくれよう。

 マイさんはカラリと笑って出て行った。


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