ナニ色に染めるの?
ガツッと可愛くない音がした。
「痛っ」
「マイさん!? どうしたんですか!」
ロッカーの前で親指を押さえてる。おそるおそる手を開くと長いネイルに亀裂が走っていた。
「ひええっ!!!」
「大丈夫大丈夫。樹脂のつけ爪部分が折れただけ。怪我してないよ。あーびっくりした。あんたのリアクションにびっくりだよ」
ロッカーを閉めたときに利き手のネイルを挟んじゃったらしい。ロングネイルあるあるだって。
「それどうするんですか?」
「これ以上亀裂が広がらないように絆創膏で応急処置。明日朝イチでサロン行きが決定した」
マイさんはこの前変えたばっかりなのにと溜息をついた。うへえ。長いネイルは憧れるけどメンテナンスと扱いが大変そうで挑戦できない。
「ネイル折れると心まで折れるよ。あーあ、気に入ってたのに」
「総取っ替えしなくても折れた爪だけリペアしてもらえばいいじゃないですか」
「指一本の為に早起きするのも悔しいからデザイン変える」
ネイルって不思議だ。化粧より美的感覚が現れるような気がする。
例えば東北美人のノノカさんは桜貝のような裸の爪だ。日々のお手入れの賜物。ギャルのライムさんはピッキング出来ますか? みたいな先細りの長いネイル。私はというとシンプルなジェルネイルだ。夜職としては大きな声じゃ言えないけど、生活に支障が出る長さは我慢できない。マイさんやライムさんは慣れだと言うけれど、私からすれば修行だ。
マイさんはじゃーんと言って十本指をわきわきした。補強したネイルを見せてもらう。
「ハート柄……?」
「可愛いでしょ。ネイル専用の絆創膏。本来は幼女用だけど。キャバ嬢なら世界観大事にしないとね」
「あはは。確かにマイさんには絆創膏似合わないです」
この人は不便さを楽しんでいると思った。その精神は私も見習わなければいけないのかもしれない。この世の可愛いものは、大体維持が大変だ。
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