ビタミンL#2


「来ちゃった」

「うそお」



 指名。いつだかのナンパ師。

 もう過去の人にしてた。



「またすっぽかされた?」

「お前に会いに来た。ところで犬と猫どっちが好き?」

「うさぎ」



 そんな感じで閉店時間まで話した。「楽しかったわ」と言って立ち上がった客を「こいつ変わってんな」と思いつつエレベーターまで見送る。



「なあ。なんで俺のライン聞かないの?」

「君って風の吹くままって感じだから」

「ふうん。よくわかんないけど」



 エレベーターが閉まる。表情筋を緩めた瞬間、内側の隙間から手が伸びてセンサーに触れた。



 ゆっくり開く扉。あたしは間抜けずらだったかもしれない。



「俺、涼介」

「あたしナナミ」



 知ってるよと手を引っ込めた。

 今度こそ閉まる扉。



 ごちそうさまって言い忘れた。


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