完落ち


 閉店まで気合いで持ちこたえたレンさんがついに潰れてしまった。長い髪を持ち背中をさすってあげる。


「っいつかごめん、」

「喋んなくていいですよー。頑張りましたねー。えらいえらい」


 人間だもの。キャパはある。客のソファに寝かせ見守っていると水を持ったマイさんがやってきた。


「レン大丈夫?」

「車は100%無理っすね」

「だよね。最悪やまぴーが店泊まってくれるって」


 黒服の山下さんはキャストと距離感が近く困った時頼りやすい。噂をすれば本人登場だ。


「やまぴー、レン無理そう」

「おっけおっけ。俺見とくから。次の車で2人とも帰れるよ」


 山下さんは優しい。せめて自力で歩ければカラオケでも満喫でも付き合えたけど今のレンさんはぐにゃぐにゃのゼリーだ。とてもじゃないけど立たせられない。



 送りの車に乗り込むとマイさんと同時にあくびが出た。マネすんなよと小突き合う。


「マイさんて潰れた事ありましたっけ?」

「エルではまだ無いかな。前の店ではやらかしたけど」

「なにしたんですか」


 にやり顔のマイさん。

 

「たった一度の過ちで何もかも失ったよ」


 怖!


「何すか酒の話ですよね。やめてくださいよそのテンション」

「あはは」



 酒の失敗は怖ろしい。

 笑えない失敗は本当に怖ろしい。

 失敗によって笑ってくれる人がいなくなるのが怖ろしいのかもしれない。


 頭は冷えていたが手は無意識にバッグの中の顆粒ウコンを探っていた。


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