キャバ嬢は卒業しない


「明日は朝シャンです」

「そっか」

「朝からシャンパンです」

「二日酔いにワイン的な?」

「むしろ仕上げてから行こうかと」

「やめなよ」


 マイさんはあきれ顔だが私だってしたくてするわけじゃない。

 明日、系列のバーが開店する。私は店長のお供として仕事で飲みに行く。


「なんで系列店なのに挨拶回りしなきゃいけないんですかね? やってらんないですよ。今日だってオープンラストで出勤してるのに」

「でも朝から飲もうとしてるんでしょ?」

「飲みたくて飲むんじゃないですよ。寝たら起きれないから惰性で飲み続けるしかないんです。そんな朝に適当な酒じゃ私が可哀想」

「だからシャンパンか」

「はい。付き合って下さい」

「嫌だよあたしだって今日オーラスだよ」

「マイさんはうちで寝ていけばいいじゃないですか。私なんて昼過ぎには行動開始ですよ。可哀想と思うなら付き合って下さい」

「家着いた瞬間寝ちゃうよ」

「バカラのフルートグラス、ペアで買いました」

「あんた馬鹿だねー」


 マイさんは笑った。勝った。


「ねっねっ。うちくるの久しぶりじゃないですか。成城石井でチーズも買いました。もちろんベッドはマイさんのものです」

「わかったわかった」

「うち酒とつまみしかないからなんか食べて帰りましょ。もちろん奢ります」

「そこまでしなくていいよ」


 やった。マイさんが泊まりに来る。すっぴんでパジャマパーティーだ。わくわくする。早く仕事終わらないかな。


 ふと、放課後という言葉が浮かんだ。

 あくまで付属品であるそれは時に本体より価値を持つと聞く。私は卒業しない永遠の学生だ。遅ればせながら、ここで友情を学んでいる。


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