左近と右マイ


「うわあこれ見て」


 マイさんがスマホの画面を向けてくる。写メした写真だ。右も左も知らない人だ……え?


「あたし右」

「やべえですね」


 一人だけど爆笑だ。魔除けかと思った。


「左の子同級生。実家片してたら出てきたって」

「人に見られる前に早いとこ燃やしてもらった方が良いですよ」

「今夜は客との会話困んないなって。キャバ嬢魂よ」

「それ芸人魂ですって。一発打ち上がったらもう何も残んないじゃないですか。自分が傷付くだけなんで封印した方が良いですよ」


 嘘に決まってんでしょとおしぼりが飛んできた。キャッチ。


「まさに黒歴史だよ。あんたにもある?」

「うーん、バンド追っかけてたくらいですかね」

「うわ。闇深そう。詳しく」


 言わなきゃ良かった。心の墓をこの人にやぶられる訳にはいかない。目を閉じて記憶の蓋を押さえ付けると、胸にいくつものシーンが差し込んできた――




 ――仕方ない。そんなに聞きたいならひとつ自分語りを、と目を開けるとマイさんは既に消えていた。魔除けの残像が見える。



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