キャバ嬢のハンカチーフ


「あっ」

「どしたんですか?」


 ロッカーの前でバッグを覗き込み固まるマイさん。


「ハンカチ忘れた」 

「グラス拭くから必須じゃないですか。事務所に予備ありますよ。キャストの忘れ物とも言う」

「あれミニタオルじゃん。あたしハンカチ派なんだよ」

「じゃあグラスのクロスで代用しますか?」


 無言でにらまれ思わず怯む。

 マイさんは美人なので迫力がある。


「や、やだなあ冗談に決まってるじゃないですか。私はミニタオルでもクロスでも構いません。つまりこのハンカチは今夜マイさんに貸して差し上げます。お納め下さい」

「あはは。悪いね」


 とびきりの笑顔。まったくこの人は。


「サンローランだ」

「可愛くないですか? ピンクもハートも柄じゃないけど、これならありかなって」

「ありあり。いやない。あんたには似合わない。あたしが貰ってあげる」

「そんな事ばっか言ってるとマイさんのハンカチ全部おしぼりに差し替えますよ!」


 マイさんは笑いながらキッチンに消えた。

 クラブエルは今日も平和だ。


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