ヘンゼルとグレーテルとイツカとマイ


「イツカさあん。クッキーたべません?」


 話しかけてきたのは料理上手のミミコさんだ。


「嬉しい! ありがとう!」

「てゆうかむしろもらってほしくって。カレシがたべたいってゆうから焼いたのに、焼きあがったらニオイで腹いっぱいって、たべてくれなかったんですよお」

「何それひどくない?」

「んー、まあ気分が変わっちゃったのかなーみたいな」

「可愛い。ラッピングもしてくれたんだ」

「もともと人のために焼いたから自分でたべる気しなくって。よろんでもらえてよかったですう」


 お礼を言ってキッチンに持ち込むと、マイさんが同じクッキーを食べていた。


「私も貰いました!」

「あたしミミコのクッキーは食べれるんだよ。店のは基本甘過ぎてだめ。砂糖の味する」

「この薄さがまた絶妙ですよね」

「彼氏は馬鹿だよ。ミミコみたいな女こそ大事にしないと後で後悔するんだよ」

「同感です」


 ひとつ頬張る。軽くて美味しい。


「マイさんは、頼まれて作った料理いらないって言われたらどうします?」

「ミミコの男みたいな馬鹿げた理由なら許さないね。お前の飯だろうがお前が食えって言うかな」

「あはは。すごい」

「あんたは?」

「私ですか? うーん。食べてくれるまで皿持って付き纏います」

「ホラーじゃん」


 美味しいクッキーがあると会話も弾む。

 私はミミコさんの彼氏に少し感謝してしまう。今夜の楽しいひとときは、このクッキーありきだと思うからだ。


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