Lemon


「おひとついかが?」

「ここキャバクラですよね?」


 キッチンに大量のレモンがある。


「どうしたんですかこれ。テキーラパーティーですか?」

「店長がネットで見つけて飛びついた。B品、大量、一個あたり激安」

「それにしたって」


 レモンの出番なんてショットやハイボールくらい。明らかに在庫過多だ。


「グラム表記でこんなに来るとは思わなかったんだって。店長らしいよね。駄目にすると勿体ないから、持って帰っていいって」

「リンゴとかならな。あっ」


 山下さんだろうか。開店前に黒服が神経質に磨き上げた銀のトレンチが平皿のように高く積み上がっている。

 レモンをひとつ手に取ると最上段にそっと乗せ、困惑するマイさんに向かってニヒルに笑いかける。


「梶井基次郎ごっこ」

「は?」


 結構楽しい。今夜むかつく客がいたらレモン爆弾をおみまいしてやろう。

 ここは本屋かい!なんてつっこまれたら、お友達になってしまうかもしれない。



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