こみねの一歩


 俺はエルの黒服だ。それ以上もそれ以下も無い。

 煙草の煙が溶ける夜空、ネオンが月を圧倒している。



「よおよお。オタクのキャバ嬢、全然落ちないよ。幾ら使えばいいんだよ」


「楽しんでますね」 


「がはは。勘弁してくれよ。なびかないのに嫉妬深くてかなわねーや」


「この後は?」


「やべっサービスタイム始まるっ」



 娯楽に忙しい客を黙って見送る。つかの間の沈黙を破るように着信音が鳴った。


「もしもし。――え? 客がきっちょむ振り回してる? 持ちにくくない? ――はいはい、ちょっと待ってて」




 選手登場を盛り上げるスモークもテーマ曲も、ここにはない。それでも俺は、俺のリングに向かう。

  

 色々あった。


 二十年後、自分に誇るよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る