Because I had a bad day


「イツカ!」

「へ?」

 

 着替えようと更衣室のドアに手をかけた瞬間、後ろから強めに呼ばれ目を丸くした。


「なんですか? リップ折った事ならもう謝ったじゃないですか」

「違くて。あんた服のタグ、襟から出てる」

「げっ」


 新品の秋服だ。ネットで買ったから油断した。夕方に届き、さっそく試着をしたら思ったより良かったのでそのまま着て出てしまった。


「電車に乗ってしまった」

「あーあの子って見られてただろうね。眉バサミあるから切ってあげる」


 ぱちりと小気味良い音がした。


「ありがとうございます。恥ずかしい」

「今日初めて着たんでしょ? 出勤だけで良かったじゃん」

「意中の殿方の前だったら取り返しつかないですもんね」

「あんたなんか寝込んじゃうよ」

「寝込むと言えば、首寝ちがえたんですよ。悪夢も見るし、お目覚め最悪でした」

「おはらい?」


 ひひっとマイさんが笑う。フロアから私を呼ぶ声が聞こえた。


「イツカさんいける? って、着替えてないじゃん。何してんの。指名来たよ」

「げげっ」


 黒服に謝り慌てて更衣室に駆け込むと開けっぱなしになっていたロッカーの扉に頭をぶつけた。


 何やっても上手くいかない日ってあるよね。


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