¥ Get inside the purple line ¥


「どうしたんですかその目!」


 キッチンに入ってきたのは黒服の山下さんだ。眼帯から紫がはみ出ている。


「驚かせてごめん。客がATM行くの付き添ったんだよ。金が入ってなかったみたいで、コンビニ出てきたところで急に殴られた」

「客どうしたんですか!」

「男相手に馬乗りよ。一応客だからな」


 その後、店の代表が飛んできて客はどこかへ連れて行かれたそうだ。


「うちの看板黒服を……」

「皆に心配してもらえるから眼帯って悪くないよ。たまになら殴られても良いかな」


 顔が動きにくいらしく上手く笑えていない。手は絶えずグラスを洗い続けている。


「毎晩どっかで黒服が殴られてんだ。今回俺が引いただけだよ。順番なんだ。それだけだ。さあ行って行って。もうすぐ団体が来るよ」


 ひじで背中を押されキッチンを出た。

 順番で殴られる、か。どんな業界だよ。


 そういえばいつだかOL掛け持ちのキャストが濡れ衣着せられて先輩にこてんぱんにされたと言っていた。弁解しないのと聞いたらこういうのは順番だって言って笑ってたな。


 どうやらこの列は強制参加のようだ。私は耐えられるだろうかと眉間にしわを寄せていると、入れ替わりでキッチンに入ったらしいマイさんの声がフロアに響いた。



「金貸し!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る