ドライム

 

「遅刻珍しいね。前の仕事押した?」

「やっちゃいました」


 ライムさんは派遣型風俗との掛け持ちだ。


「戻りのタクシーが事故ったんすよ。相手原付です。向こうの一停無視です」

「ええっ大丈夫なのっ」

「はい。左からで、あたし運転席側の後部座席いたんで。事故っていうかぶつかったって感じっすね。あはは」

「それを事故って言うんだよ。大変だったね」

 

 ライムさんは何て事ないように言うが、交通事故なんて笑い事じゃない。


「店の代表が車飛ばして来てくれたんで事務所はすぐ戻れたっすけど、心配性の内勤に話聞かれたり、いらねえっつってんのに店長にコーヒー飲まされたりして結局遅刻しました」


 当然だ。大事なキャストなんだから。休んだって良い状況だ。

 そういや、とくすくす笑う。


「エルの店長も心配してたっすね。遅刻確定した時、もう逆にゆっくり行こうと思って電話したんすよ。事情話したら店長慌てちゃって、受話器落としたんすよ。ギャグ漫画かよって。でもその音聞いて、ああ早く顔見せて安心させてあげなきゃなって、結局スタバの新作は諦めて、真っ直ぐ来たっす」


 ライムさんは見た目きつめのギャルだけど根はとても優しい。


「結果一時間遅刻でしたけど罰金もいいって。オフレコっすよ。有り難いけどこの前オーダー飛ばされてガチ切れした後だからちょっと気まずいっす」

「それはそれだよ。その話聞けて良かったよ。うちの店長、ちょっと見直したよ」

「遅刻見逃してもらっただけっすけどね」


 それでも自分を思って慌てたり心配したりしてくれる人は貴重だ。

 ライムさんはちゃんとそれを分かっている。

 だって濃いメイクで真っ黒に縁取らた瞳が、優しく笑ってるから。




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