Words can’t bring us down


「イツカさん、ビューラー貸してくれませんか?」


 ミクさんだ。更衣室で一緒になった。もちろん貸してあげる。


「ありがとうございます。朝から何か忘れてる気がして。命より大切なビューラーでした。助かりました」

「そんな大げさな」

「大問題ですよう。ああ、イツカさんの幅の広い二重、羨ましいなあ。あたしビューラーしないと目が開いた気がしなくて」

「私はコンシーラーが必須。目の下のくまがひどいんだ。昼夜逆転とはいえちゃんと寝てるのに、なんでだか全然だめ。いつだか早朝すっぴんでコンビニ行ったら店員にギョッとされ、心に傷を負った」

「あたしは元カレに起きろって言われた事あります。起きてんのに」

「ごめんめっちゃおもろい」


 笑いを噛み殺した。更衣室の壁は薄い。

 ミクさんも自分で言って自分でツボに入ってしまったらしく一緒になって笑い出した。

 せっかくカールしたまつげが下がっちゃうと言い出して、もう私は床にうずくまってしまった。笑いすぎておなかが痛い。


 もう、こういう笑いって後引くよ。

 客がおめめぱっちりだったらどうしよう。


 涙がコンシーラーを流してしまうのを防ぐべく上を向いて目頭にティッシュを当てた。

 イツカさん変な顔と言い出したミクさんはもう普通に笑っている。私もつられて、諦める。だめだ。笑おう。


「大丈夫?」


 ノックと店長の声だ。


 大丈夫なもんか。メイクは永遠の大問題だ。

 それでも笑いの涙でまつげが下がったミクさんは、誰よりも綺麗だ。


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