エンパイアステイツ・オブ・キャバ嬢


「イツカ、高橋さんが来るって。連れの後輩に指名させるよ」

「やった!」

「写メ送っていい?」

「三割増しで可愛く撮ってください」


 高橋さんはマイさんの指名客だ。明るく豪快で笑顔が多い。後輩はどんな人だろう。嬉しくてキッチンではしゃいでると店長が入ってきた。マイさんが声をかける。


「これから指名が来るから。あたしとイツカね」


 店長は話半分に新しい灰皿を重ねて持つとバタバタと出て行った。


「……分かってんのかね」

「指名来たらすぐ教えろよてめえこの野郎まで言わないと伝わらないんじゃないですか」

「それあんたが言ってよ」


 店長心臓止まっちゃうと言って笑った。 

 私は割と大人しいで通っている。多分。



 ◆



「高橋さんお久しぶりです! お兄さんは初めまして、イツカです。名刺渡してもいいですか?」


 一番シンプルで一番高価な名刺をテーブルに滑らせるとマイさんの華麗なおねだりでシャンパンが入り、四人揃って乾杯した。その後は自然と会話が別れた。


「シュウジ君はキャバクラとかはよく行くの?」

「実は今日初めてなんだ」

「高橋さんに誘われて?」

「そう。さっきまで普通に焼き鳥食べさせて貰ってたんだけど」

「高橋さんも久々だから皆で楽しみたかったんじゃないかな。初キャバどう?」

「楽しいよ。もっとうるさくて暗い場所だと思ってたんだ。お酒も美味しい。イツカさんも優しくて話しやすい」


 まてなんだこの可愛い生き物は。もう酔っ払ってんのか?


「良かったらまた遊びに来てよ。私ほとんど毎日いるし」

「毎日? 仕事はしてないの?」


 慣れっこだ。問題ない。


「専門学校に通ってたんだけど、事情があって辞めちゃったの」

「そうなんだ。色々あるんだね」

「全然だよお」


 話題を変え、ゲームの話で盛り上がった。趣味が合いあっという間にタイムアップ。

 ラインを教えてもらうとアイコンを開き猫のスタンプを送った。


「猫好きなの? 可愛いね」

「本当は犬派なんだけどそのスタンプ気に入っちゃって」

「俺はイグアナが好き。飼ってる」


 それもっと聞きたかったと肩を叩く。女の子は爬虫類だめだと思ってと、困ったように笑った。


 エレベーターまで見送る時、白い蛍光灯の下に出てシュウジ君はまた少し緊張した顔に戻ったけど、イグアナの写メ送ってねと言うと笑っていいよと言ってくれた。


 見送りを済ませ、お礼のメッセージを送るとすぐに返信が来た。

 ごちそうさまに、写真付き。つぶらな瞳のイグアナが枝の上で身体をよじり、太陽みたいなオレンジ色のライトに照らされていた。


「イツカありがとね。助かった」

「イグアナになりたい」

「は?」

「シュウジ君ちのイグアナになって、」

「なに?」


「イツカさん次の卓いくよー」


 店長の声。間が悪りいなとマイさんが舌打ちをする。

 私はリップだけ塗り直すと飼い主不在のボトルジャングルへと繰り出していった。


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